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枯れない花

[381]  羊羽  2006-03-04投稿
桜色の風が吹いた。
この世界を包む空気、当たり前のもの。誰も意識もせずただ消費されるもの。そんな特別に意識をしたこともないものを、こんなにも美しく感じたことが今まであっただろうか?そう彼女は思っていた。
自然と心を踊らせていく風が吹く場所。人が住まう世界から遥か遠くに広がった森の入り口。
足元には花。咲き乱れる花。狂い咲いたハナ。辺り一面を覆いつくすそれはあまりの多さと不規則さに、逆に計算しつくして配置した芸術のようにも思えた。
そして、その奥に立ち並ぶ森。生い茂る木々。枝葉の一つ一つから放たれる太陽から借りた輝きは宝石をちりばめたかのように眩しい。そんな美しい森の入り口の中央を伸びる道だけは少し違って見えた。
暗い、暗い闇。森の奥へと進むほど、濃さを増していきそうな闇。そんな闇へと誘い込むように頼りない細い道が一本だけ伸びていた。
彼女には、辺りの木々や花々の輝きが、この深く広がる闇を覆い隠すためだけに作り上げられた、まがい物のようにさえ思えてきた。
だが、彼女はこの闇の向こうへと進むしかなかった。進むしかないからここにいるのだ。
これは彼女の物語。
彼女の話をしよう。
ハナの話を。

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