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カラスの天狩り 1 『きっかけ』

[644]  くろあげは  2007-07-03投稿

−−−カラスが、
恐ろしかった。−−−


漆黒の躯に、大きな翼。鋭い眼光を放ち、硬いくちばしと、肉をも引き裂く爪を持つ 鴉(カラス)。

一羽大空を舞う、
孤高の存在かと思えば、時に不気味なほどの、
黒い塊の群れと化す。
人間なんか気に留めず、自由にに遊歩するかと思えば、
時に牙を向けて、人に襲い掛かる。

気まぐれそうな、でも、凶暴性を持った存在。

そしてそれは、
畏怖の対象だった。

酷い云われようだけど、陰気な鳴き声で、墓場に群れるその姿は、まるで死神の遣いのよう。
不吉の鳥とも云われ、
子供だけではなく、大人でさえも恐怖と警戒心を抱いていただろう。


−−だから、僕も…、
カラスが怖かった…。


でも、さしてこちらから危害を加えなければ、
カラスは牙を向けてこない。
子供も、大きくなるうちにその存在に馴れてきて、日常に居る当たり前の存在となって、たいして怖がらなくなる。


−−−でも僕は、
そうじゃなかった。


子供の頃。
小学生2年生ぐらいの時に父が死んだ。
元々心臓が弱い人で、
心筋梗塞だったらしい。…急すぎる死だった。

そして、
火葬場での事だった。

その日は曇り空。
嫌なぐらいに灰色の空。確か僕は、泣いている母に手を引かれて、父が死んでしまったという実感の無いまま、空を見上げていたと思う。
そう…、カラスが飛び交っていた。
一羽のカラスが僕の近くへ舞い降りてきて、
僕はそのカラスと目が合った。

真っ黒でとても怖い目。


『カラスは死神の遣いで人の魂を盗るんだって』

学校でクラスメイトが、そんな話をしていたのを思い出して、僕は途端に目の前のこのカラスが恐ろしくなり、母の手を強く握った。


カラスは命を盗るんだ…


警戒するように、じっとカラスを睨みつける。


じぁ、お父さんが居なくなったのは、カラスが魂を盗ったから…?
だってほら、お母さんが、急な死だって…。

盗られたから?
だから死んでしまったの…?

つまり、殺されたの?

カラスは、

僕の命も盗るの?



−−−そう、
だから今、この目の前のカラスも…、

「僕を殺すのか…?」

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