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もう一度・・・

[306]  咲月  2006-03-07投稿
カランカランカラン・・・
久々の美容室特有のにおいが梨湖の鼻をムズムズさせ、顔をこわばらせる。

「あっ、梨湖ちゃん。いらっしゃい。」
背が高くすらっとした青年が、梨湖に向かい微笑み声をかける。

「お久しぶりです。咲麻さん。」
懐かしい笑顔のおかげで緊張も解け、梨湖の顔に笑みが戻った。

「今日はどうしようか?前と同じ?」
「えっと・・・、はい。カットとトリートメントで。」
「はい。了解。じゃあ、こっちに来てね。」
梨湖と咲麻は再会を喜ぶ、そんな会話をしながらカット台へと移動する。

「もう、一年も経ったんだね。」
咲麻は、梨湖の髪をとかしながら鏡越しにそういった。そしてこう続けた。
「早いもんだね。一年なんて。あのトキからはもう四年か・・・。」
「はい・・・。早く感じますよね。」
梨湖は少しうつむき言った。

あのトキ・・・。
梨湖の脳裏に、スライドショーのように次々とたくさんの思いが駆け巡る。

「梨湖ちゃん?」
咲麻は、うつむき黙ったままの梨湖を心配そうに見つめていた。
「すいませんっ。大丈夫です。」
はっと、我に返った梨湖は慌ててそう言った。
「無理もないよね。アイツ・・・陽の奴、まだあんな状態だし。」
ふぅっと、ため息を交えた咲麻の返事だった。
梨湖は何も言わず、ただうつむいていた。
チョキチョキとはさみの音だけが店内に響いていた。

「咲麻さーん!」
沈黙を割いたのはほかの店員の声だった。なにやらボソボソと話し、
「ごめん、梨湖ちゃん。2,30分待っててもらえるかな?」
梨湖は顔をあげうなずいた。そして咲麻は、席をはずした。

梨湖はまたうつむき、目をつむった。
また・・・、スライドショーが駆け巡る。

***続く***

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