ヤス#109
ヤス#109
才能と努力。まさしくヤスがそれだった。
板長の健さんも大将に逐一報告していた。健さんの言葉を借りれば、ヤスは料理の天才らしい。当の大将もその事は認めていた。
夜、大将に呼ばれた。
「お疲れ様です。大将、何か?」
「うん。他の板前との兼ね合いもあって、悩んだのだがな。お前を来月からチーフにしょうと思うんだが…どうだ?」
「…はい。嬉しいのですが」
「なんだ。嬉しく無さそうじゃないか」
「はい。自分は若過ぎます」
「実力は誰もが認めているんだよ。構わないだろう」
「大将。申し訳ありませんが、ご辞退させて下さい。チーフは後藤さんが適任だと思います」
後藤一郎。三十歳で確かな腕を持っている。只、少しばかり信望に欠けていた。
「そうか…欲が無いな」「大将。この場を借りて言わせて下さい。身よりの無い俺を引き受けてくれて、家族同様に可愛がっていただいています。身よりの無い俺にとって、ここはふるさとのような所です。俺には肩書きなんて必要ないです。アルバイトの洋ちゃんが休めば皿洗いだってします。便所掃除だってします。俺は少しでも恩返しが出来ればそれで幸せだと思っているんです。
才能と努力。まさしくヤスがそれだった。
板長の健さんも大将に逐一報告していた。健さんの言葉を借りれば、ヤスは料理の天才らしい。当の大将もその事は認めていた。
夜、大将に呼ばれた。
「お疲れ様です。大将、何か?」
「うん。他の板前との兼ね合いもあって、悩んだのだがな。お前を来月からチーフにしょうと思うんだが…どうだ?」
「…はい。嬉しいのですが」
「なんだ。嬉しく無さそうじゃないか」
「はい。自分は若過ぎます」
「実力は誰もが認めているんだよ。構わないだろう」
「大将。申し訳ありませんが、ご辞退させて下さい。チーフは後藤さんが適任だと思います」
後藤一郎。三十歳で確かな腕を持っている。只、少しばかり信望に欠けていた。
「そうか…欲が無いな」「大将。この場を借りて言わせて下さい。身よりの無い俺を引き受けてくれて、家族同様に可愛がっていただいています。身よりの無い俺にとって、ここはふるさとのような所です。俺には肩書きなんて必要ないです。アルバイトの洋ちゃんが休めば皿洗いだってします。便所掃除だってします。俺は少しでも恩返しが出来ればそれで幸せだと思っているんです。
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