狐の面?
ようやく落ち着きを取り戻した時には、私は会場の外にいた。若者の騒がしい声や終盤を迎えた花火の音が小さく耳に入ってきたが、私にはもはや関係のない事であった。
近くにあった自動販売機で缶コーヒーを買って、酔いを覚ますように一気に飲み干した。乱暴に空き缶を捨てて、彼女のことは諦めて帰ろうと歩を進めたその時である。
前方の暗闇に、まるでろうそくの炎のようにゆらゆらと頼りなく浮かび上がる怪しげな人影を見つけた。
すぐさま私は走り出した。直感的にそれが彼女であると感じたからだ。期待よりもむしろ確信に近かった。あれが彼女でないわけがない、と。しかし、私が近付くと人影は暗闇の中へ埋もれるようにしてすうっと消え入ってしまい、結局それが彼女であったかどうかを確認することは出来なかった。
しんと静まり返った暗闇の中に私だけが佇んでいる。本当に彼女は消えてしまったんじゃないかと考えて、私は俄かに悲しくなった。彼女が一体何者なのかとか、ひょっとしたらこれは夢なんじゃないかとか、そんなことはもうどうでも良かった。とにかく彼女がいなくなってしまったことが悲しかった。ともすれば溢れ出しそうになる涙を堪えて、私はその場にうずくまった。
ふと、私の足元に何かが落ちているのに気が付いた。拾い上げてみると、1つは先程祭りの雑踏の中で落としてしまったはずの2匹の金魚である。そしてもう1つは、今時珍しい古風な作りの面であり、それは彼女が肌身離さず持ち歩いていた狐の面に間違いなかった。
狐の面は相変わらず人をからかっているような顔で私をじっと見つめていたが、そこにはどことなく今までにない満足げな表情も混じっているような気がして、私は思わず微笑んだ。
会場に目をやると、どうやらつい先程最後の花火が鳴り終えて、祭りは片付けに向かっているようである。私は天に向かってほうっと息を吐き、面と金魚を携えてゆっくりと立ち上がった。その時。
「あ」
するはずのないりんご飴とわたあめの香りが、私の鼻を掠めていった。
近くにあった自動販売機で缶コーヒーを買って、酔いを覚ますように一気に飲み干した。乱暴に空き缶を捨てて、彼女のことは諦めて帰ろうと歩を進めたその時である。
前方の暗闇に、まるでろうそくの炎のようにゆらゆらと頼りなく浮かび上がる怪しげな人影を見つけた。
すぐさま私は走り出した。直感的にそれが彼女であると感じたからだ。期待よりもむしろ確信に近かった。あれが彼女でないわけがない、と。しかし、私が近付くと人影は暗闇の中へ埋もれるようにしてすうっと消え入ってしまい、結局それが彼女であったかどうかを確認することは出来なかった。
しんと静まり返った暗闇の中に私だけが佇んでいる。本当に彼女は消えてしまったんじゃないかと考えて、私は俄かに悲しくなった。彼女が一体何者なのかとか、ひょっとしたらこれは夢なんじゃないかとか、そんなことはもうどうでも良かった。とにかく彼女がいなくなってしまったことが悲しかった。ともすれば溢れ出しそうになる涙を堪えて、私はその場にうずくまった。
ふと、私の足元に何かが落ちているのに気が付いた。拾い上げてみると、1つは先程祭りの雑踏の中で落としてしまったはずの2匹の金魚である。そしてもう1つは、今時珍しい古風な作りの面であり、それは彼女が肌身離さず持ち歩いていた狐の面に間違いなかった。
狐の面は相変わらず人をからかっているような顔で私をじっと見つめていたが、そこにはどことなく今までにない満足げな表情も混じっているような気がして、私は思わず微笑んだ。
会場に目をやると、どうやらつい先程最後の花火が鳴り終えて、祭りは片付けに向かっているようである。私は天に向かってほうっと息を吐き、面と金魚を携えてゆっくりと立ち上がった。その時。
「あ」
するはずのないりんご飴とわたあめの香りが、私の鼻を掠めていった。
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