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君だけを(11)

[271]  じゅりあ  2007-08-11投稿
井上は、合併症で癌も患っていたらしい。
それも悪性の…。

(何で、なにも言ってくれなかったんだよ…)

私は今、井上の葬儀に出ている。
周りは皆、涙していたけど。
まだ、実感がない。

井上が居なくなった事の―。



葬儀の後、井上のお母さんに呼び止められた。

井上がお母さん似だったんだと言う事を、本人がいなくなってから初めて知った。

「これ、あなたに貰って欲しいの」

そう言って差し出された、見慣れたスケッチブック。
「え…」

私は受け取るのを戸惑った。
すると井上のお母さんは泣き腫らした顔でやさしく微笑んだ。
「多分、尊も望んでると思うの。あなたに受け取って欲しいって」

(井上が…?)

私は頭を下げて受け取った。



やがて誰も居なくなった遺影の前でゆっくり、それを開く。

私が初めて見た、井上の完成された絵。

それをめくり、手を止めた。

「これ…」


『じゃあさ、私も描いてよ』


『バカ…』



これ…

私だ。
満面の笑みを浮かべてる。

下の方に、『裏も見ろよ』ってメモ書き見つけて、更にめくる。

そこには、

『ありがとな』

たった一言だけ綴られていた。

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