異界の住人 最終話
「中原先生、どうなさったんですか?」
「え? ああゴメンなさい。ちょっと思い出した事があって…」
愛の様子をいぶかしげに眺めていた担当編集者は、気を取り直すと話の続きに入った。
「先程申しました様に、私は本日を持ちまして先生の担当を降りる事になりまして、…
今後はこの白岡が参りますので、どうか宜しくお願い致し… ほら、早く中原先生にご挨拶して!ニヤけてるんじゃないよ全く……」
「よ!愛ちゃん。ご無沙汰だねえ」
「もう触らせないわよ。
何たって私、ひ・と・づ・ま ですからね〜だ」
旧姓島崎愛は、目前にいる白虎ら四神との不思議な体験談を小説にまとめ、作家としてのデビューを先年果たしていた。
時折、忘れた頃にヒョッコリ現れる白虎や青竜たちではあるが、いつしかそれにも慣れていった愛である。
愛の夫、中原健次は航空写真の名手として海外でも評価が非常に高い。
撮影に航空機やヘリのチャーターを殆どしない彼が、超高度からの撮影を可能にするのは、ひとえに朱雀たちの協力のたまものである。
大橋由紀江は、YUKIのペンネームでバイク専門誌の売れっ子ライターとして活躍していた。
何が起きようと全く動ずる色も見せないクールなインプレッション(試乗記)は、玄人すじでも定評がある。 が、これもまた四神達による鉄壁のガードがあればこそ。
「へーっ、オメデタかぁ…。健次くんもなかなかやるなあ。 それじゃ、ご祝儀あげないとね」
「ふふっ♪ ちょっと怪しげだけど何かしら?」
笑顔の愛が受け取ったのは勾玉(まがたま)をあしらったネックレスだ。
「卑弥呼の霊力のこもった本物でね、御守りとしちゃまごうかたなき一級品さ」
「これ、あなたの思い出の品じゃないの…。
あ、…ありがとう。
一生大切にするわ」
形見の品を手放した白虎。
その幾分寂しげな横顔は、愛の心に感動のさざ波を広げていった。
全十四話・完
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