ロストメロディ
刹那の体が大きな音をたて崩れるように倒れた。その音を合図に近隣周辺の民家から人が集まってきた。その誰もが天使の側から刹那を見下ろし卑しい笑みを浮かべていた。
刹那の胸には矢が深々と突き刺さっており、その体はピクリとも動かない。
「どうでしょうか天使様…この度の生贄の具合は…?」
「いいね。後でこの地域に報酬を送るよ、ただ…」
その天使は弓を下ろすと言葉を切った。「油断はしない方がいいね…」
不思議な顔をする住民に天使は刹那の死体の方を指を差して見せた。
住民達は絶句し自らの目を疑った。
そこに刹那の死体は無かった。
刹那は無我夢中で夜の街を駆けた。
さっき起こった全ての出来事が信じられなかった。
(一体どうなってんだよ…本当に俺は…)
足は自然とあの老人のいる橋の下の小屋へと向かっていた。自分に天使や戦争のことを教えてくれた人物…今は老人だけが唯一信用できるように思えた。
小屋は明かりが灯されていて老人の影が外からでも確認できた。刹那は小屋の扉を激しく叩くと老人の名を叫んだ。
「なんじゃい…こんな時間に…」
いつもと変わらない表情の老人が小屋から姿を現した。刹那はようやく安堵の表情を見せた。
「刹那…?どうしたんじゃ、胸元が血だらけだぞ!?」
そういわれて刹那は初めて自分の制服が血まみれであることに気が付いた。
「まぁいい…詳しい話は中で聞こう」
老人は刹那を小屋へ入れると温かいお茶をだしてその場に座らせた。
刹那は先刻あったこと、その全てを老人に話した。
天使に生贄として選ばれたこと…
両親から捨てられたということ…
刹那の口からせきを切ったように言葉が出てきた。
「俺…どうすりゃいいんだよ…」
「それが天使のやり方だ…」
不意に老人の声ではない全く別の声が部屋に響いた。
ふと目を向けると奥から黒い装束に身を包んだサングラス男と同じような服装をした少女が現れた。「あんたは…?」
「俺は彩羽。戦使の生き残りだ」
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