四条公務員予備校
その日はやたら黄色い夕焼けだった。
司法試験の合格通知を受け取った日。森野冬樹は伸ばした髪を剃刀で剃った。今日も伸びた分を剃ったがやることがない。仕方ないから下宿前の鴨川を、ママチャリを曳いて歩いていた。 大阪の奴は優勝したら道頓堀に飛び込む、なら京都人なら惨敗したとき鴨川に飛び込むんかいな。
そんなアホなことを考えたからなのか。横を自転車が勢い良く通り過ぎた。
「うぎゃーーっ!」
身長158の体が吹き飛んだ。小さな体は濁流に飲み込まれ流れていった。
西本願寺の僧侶 柳原正仁は四条河原町のロシア料理店・キエフに向かっていた。
「さっき川から引き上げたんだけど、かわいそうな子だ。お経あげてやっておくれ」橋の下からおっさんが言った。川岸には坊主頭の男が伸びていた「塩と線香もってきてー」
「死んでねぇよ!」 彼は体を起こした。「さっきから何なんだよあんた!」
「坊さんが奇跡を起こしたぞ」人だかりに囲まれていた。
柳原は立ち去ろうとした「待て!」森野が人込みの中から出てきた「僧侶?」「…も、してます」「も?」森野は聞き返した「…大学と、予備校で法律教えてます」
法律。その言葉に鈍い痛みを覚えた「あなたは」「えっ?」一瞬喉が引きつって声が出なかった
「…司法試験に、落ちました…」
「…そうだ」「何ですか」「教える仕事した経験は」森野は質問を理解できなかった「…ええ」「憲法民法刑法は」「司法試験で何とか」「行政法は」「そればっかりはできん!」
「法律教えられれば公務員予備校の教師ができる」柳原は頷いた「私の後任としてあなたを紹介します」
手を引かれて森野は四条に飛び出した。日はとっぷり暮れていた。司法試験に落ち、鴨川に突っ込み、拾ってくれたのは神様ではなく僧侶。
先のことは分からないが、この船に乗ることに決めた。
司法試験の合格通知を受け取った日。森野冬樹は伸ばした髪を剃刀で剃った。今日も伸びた分を剃ったがやることがない。仕方ないから下宿前の鴨川を、ママチャリを曳いて歩いていた。 大阪の奴は優勝したら道頓堀に飛び込む、なら京都人なら惨敗したとき鴨川に飛び込むんかいな。
そんなアホなことを考えたからなのか。横を自転車が勢い良く通り過ぎた。
「うぎゃーーっ!」
身長158の体が吹き飛んだ。小さな体は濁流に飲み込まれ流れていった。
西本願寺の僧侶 柳原正仁は四条河原町のロシア料理店・キエフに向かっていた。
「さっき川から引き上げたんだけど、かわいそうな子だ。お経あげてやっておくれ」橋の下からおっさんが言った。川岸には坊主頭の男が伸びていた「塩と線香もってきてー」
「死んでねぇよ!」 彼は体を起こした。「さっきから何なんだよあんた!」
「坊さんが奇跡を起こしたぞ」人だかりに囲まれていた。
柳原は立ち去ろうとした「待て!」森野が人込みの中から出てきた「僧侶?」「…も、してます」「も?」森野は聞き返した「…大学と、予備校で法律教えてます」
法律。その言葉に鈍い痛みを覚えた「あなたは」「えっ?」一瞬喉が引きつって声が出なかった
「…司法試験に、落ちました…」
「…そうだ」「何ですか」「教える仕事した経験は」森野は質問を理解できなかった「…ええ」「憲法民法刑法は」「司法試験で何とか」「行政法は」「そればっかりはできん!」
「法律教えられれば公務員予備校の教師ができる」柳原は頷いた「私の後任としてあなたを紹介します」
手を引かれて森野は四条に飛び出した。日はとっぷり暮れていた。司法試験に落ち、鴨川に突っ込み、拾ってくれたのは神様ではなく僧侶。
先のことは分からないが、この船に乗ることに決めた。
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