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ロストメロディ

[632]  あいじ  2007-08-24投稿

彩羽と名乗る男は黒いコートをマントのように靡かせ、その鍛え上げられた体を腕につけた鉄甲で固め支えていた。
サングラスの為か表情が読めないがなんとなく宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に登場する「鴉の大将」を連想させた。
「彩羽…お前…」
「悪いな天見、表口が騒がしいんで裏口から失礼させてもらったのだが…」
「いや…そうじゃなくて…その子は?お前の娘か?」
老人は彩羽の隣にいる少女を指差した。年の頃は刹那と同じくらいだろうか。
サングラスこそしていないものの、黒いコートに身を包んだ姿は彩羽と同じような服装をしていた。短くまとめた黒い髪が美しい。
「まさか、こいつは俺の弟子さ。名前は明日奈っていう」
苦笑混じりに彩羽が答えた。
「お前が弟子を持つ気になったとはのう…」
老人はしげしげと明日奈を見つめた。彼女は恥ずかしいのか少し下を向き顔を老人から背けた。
「じいさん…戦使と知り合いだったのか?」
話の見えない刹那が問いかけた。
「何も話していないのか?天見…」
老人は押し黙り刹那を見つめたが耐えられないというように話し始めた。
「ワシの名前は天見十史朗…かつて天使達との戦争においてあらゆる兵器開発を行っていた技師じゃ…戦争が終わり、人類は負けた為、ワシは天使達の追及から逃れる為に隠れて生活していたのじゃ…」
刹那は何も答えられなかった。あらゆる物事が頭の中を交差し反芻する。
「俺や天見の事より話は聞かせてもらった…刹那とやら、お前は天使達の生贄に選ばれたんだ」
「いけ…にえ?」
「そうだ。天使達は治めている地域を『エデン』と呼び、決められた周期で人間を一人殺す。その一人は地域内の人間達の手で決められ『生贄』として奴らに差し出される」
「そん…な…じゃあ俺の両親は…」
刹那は嫌な考えを振り切ろうと必死に頭を振った。しかし考えは消えなかった。「俺の両親は…俺を売ったのか?」
「そう…いまやこの周辺地域全てが君の敵だ」


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