黒の心は光を見つめる
彼は黙って彼女を見つめる。表面では無表情だが、頭の中では何故止まったのかという疑問が反芻していた。一瞬逃げる気なのかと警戒もしたが、それならば止まるわけはないし、それに当の彼女が何故か少し顔を赤くしてモジモジしている所を見ると、どうやら逃げる気はないらしい。結局彼は、彼女の出方を待つことにした。
彼女はしばらくモジモジとしていたが、意を決したようにキッと顔を上げ、大きな声で叫ぶように言った。
「あ…貴方の名前を教えてくれませんか!」
その場に冷たい沈黙が流れた。
「あ…あの?」
唖然としていた彼ははっと意識を取り戻し、先程目の前の女が言ったことを思い返した。聞き間違いでなければ、今確かに俺は名前を聞かれたはずだ。だが待て。今この状況で聞くやつがあるだろうか。しかもたった今命を狙われた相手に。
彼が理解に苦しみ頭を抱えていると、突然彼女はああっ!と言って手を叩いた。
「自分から名乗るのが礼儀ですよね。ごめんなさい。私はリナ・カトゥルシナと言います。」
それじゃ、私は要があるので、と彼女は微笑み走って行った。
「え、おい、お前……。」
彼が声をかける頃には、もうすでに彼女の姿はなかった。
彼はもう驚きを通り越して呆れていた。自分の名を名乗り、尚且つ自分で聞いておきながら俺の名を聞かずに走って行く辺りが、彼には全くもって理解しがたい行為だった。
これが逃げる作戦なら正に大胆不敵だろう。俺が油断大敵なのか?とも考えたが、これならどんな人でも唖然とする。なんという少女なんだ、と彼は溜め息をついた。
さて、これからどうしようか。あの調子では俺が何を言ったのかも覚えていないだろう。彼は一通り解決案を考えると、面倒だなと、とても深い溜め息をつきながら、彼女が向かった方向へ歩き出した。
リナは陽気な気分で村に戻ってきた。が、村に戻って来れたのは一重に彼のおかげ(実際は彼に言われなければ戻れなかったわけで、一重にではなく完全に彼に助けられた形なのだが)と今気付き、更に名前を聞かずに走り出した自分の馬鹿さ加減に落胆していた。
リナとしてはお礼を言いたいのだが、一体どこに居るのかわからないし、またあの森に入って迷うのも嫌だったので、心の中で感謝しておいた。
彼女はしばらくモジモジとしていたが、意を決したようにキッと顔を上げ、大きな声で叫ぶように言った。
「あ…貴方の名前を教えてくれませんか!」
その場に冷たい沈黙が流れた。
「あ…あの?」
唖然としていた彼ははっと意識を取り戻し、先程目の前の女が言ったことを思い返した。聞き間違いでなければ、今確かに俺は名前を聞かれたはずだ。だが待て。今この状況で聞くやつがあるだろうか。しかもたった今命を狙われた相手に。
彼が理解に苦しみ頭を抱えていると、突然彼女はああっ!と言って手を叩いた。
「自分から名乗るのが礼儀ですよね。ごめんなさい。私はリナ・カトゥルシナと言います。」
それじゃ、私は要があるので、と彼女は微笑み走って行った。
「え、おい、お前……。」
彼が声をかける頃には、もうすでに彼女の姿はなかった。
彼はもう驚きを通り越して呆れていた。自分の名を名乗り、尚且つ自分で聞いておきながら俺の名を聞かずに走って行く辺りが、彼には全くもって理解しがたい行為だった。
これが逃げる作戦なら正に大胆不敵だろう。俺が油断大敵なのか?とも考えたが、これならどんな人でも唖然とする。なんという少女なんだ、と彼は溜め息をついた。
さて、これからどうしようか。あの調子では俺が何を言ったのかも覚えていないだろう。彼は一通り解決案を考えると、面倒だなと、とても深い溜め息をつきながら、彼女が向かった方向へ歩き出した。
リナは陽気な気分で村に戻ってきた。が、村に戻って来れたのは一重に彼のおかげ(実際は彼に言われなければ戻れなかったわけで、一重にではなく完全に彼に助けられた形なのだが)と今気付き、更に名前を聞かずに走り出した自分の馬鹿さ加減に落胆していた。
リナとしてはお礼を言いたいのだが、一体どこに居るのかわからないし、またあの森に入って迷うのも嫌だったので、心の中で感謝しておいた。
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