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マドレーヌをもう一度-第一章?(正規)

[354]  鈴里ユウ  2007-09-20投稿
生まれも育ちも全く違う彼らにもただ一つ共通点があった。
それは甘い菓子が大好きだということである。
この時代、中立を守る第三星間国家のアカイア公国の首都ブルガールでは、優秀な料理人が数多く育ち、王国や連邦にも店を出していた。
この時代の奇異な点は、戦争の時代にもかかわらず、そうした文化的事業が両国家に受け入れられ、成立っているということである。後世、このことを幾人もの歴史家が検証し、理由を探ったが、やはり人の心というものは、その時を知らねば計れないものである。この当時の人々は、それを楽しみに辛いことを乗り越えようとしたのであろうか。
ともかく、そういった実情から連邦首都グラフトンにも、菓子の名店が多く存在していた。
一度、アランが名店「アンドラーシュ」のマドレーヌを仲間に買ってきたことがある。皆は美味しそうに食べているのに、ケイトは小首を傾げている。
「不味いか」
「ううん、すごく美味しいんだけど…」
せっかく買って来てこう言われたアランは、少し苛立って尋ねた。
「じゃあ、なんだ」
「…わたしが作るマドレーヌの方がおいしいかも」
アランは目をパチクリさせた。どうもケイトと付き合うようになって、表情が豊かになってきたらしい。
しかし、口数だけは相変わらず少なく、
「じゃあ作ってきて」と言うと、何も無かったように残った菓子を食べ出した。

数日後、ケイトが約束通りにマドレーヌを作ってきた。
アランはそれをじっと見ていたが、おもむろに一つ食べてみる。「…うまい」
アランの舌と脳に軽い衝撃が走った。間違なく今まで食べたマドレーヌと訳が違う。
ケイトはイタズラっぽく笑って言った。
「そうでしょ?実はうちの父の家は公国の老舗菓子店なの。それで昔に教わったことがあったのよ」
アランはケイトの知らない一面をみて、微笑を浮べて言った。
「他のみんなにも作ってきてやれよ。まてよ…」
アランは二秒ほど考えて、
「一度だけでいいぞ。もったいないからな」
アランがいつもと違って喋りだしたので、ケイトはおかしくて仕方が無かった。
こうして、ケイトはこの三日後の十月七日に五人分のマドレーヌを作ってきたのだが、結局誰も食べずに持って帰ることになる。
同じ候補生のアジドが訓練中に王国軍と戦闘となり、戦死したためである…

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