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マドレーヌをもう一度-第二章?

[360]  鈴里ユウ  2007-09-20投稿
その遭遇戦の報がドーリア連邦の首都グラフトンにもたらされたのは十月七日午後三時のことである。
国境付近での戦闘はそう珍しいことでは無かったのだが、空軍幹部候補生の面々にとっては事態の行方が気になった。
同じ候補生のアジド・アジャールが訓練に参加した部隊だったからである。
「あいつならきっと大丈夫だろう。運もいいし、空戦の腕も悪くない」
グエン・ナムツェルはそう言ったが、明らかに豪胆な彼らしくなく、動揺を隠せずにいた。
しかし、同日午後九時に伝わった戦闘の続報はそんな思いを裏切った。
訓練中だった第八分艦隊の戦死は五割を超え、その中にアジド・アジャールの名前があったからである。
候補生調整室の通信画面で確認した彼らは暫く動けず、やがてリン・ケリーが泣き崩れると、その呪縛が解けたようにケイトも泣き出し、グエンは無言で壁を叩いて部屋を飛び出した。アランはそのまま画面を睨み付けるように見ていたが、やがて飛び出したグエンを捜しに行った。

そこは、アジドのロッカールームだった。アランは彼の姿を見つけ、彼らしく静かに歩み寄った。
「グエン…」
壁に向かってうなだれて表情は見えなかったが、肩を震わせて泣いているようにアランには見えた。
「何故あいつなんだ?」
グエンはそのままアランの呼び掛けに応えた。
「あいつは良い奴だったのに…。俺達はあいつがいつも笑って場を和ませてたから、一緒にいれたんだ」
「……」
アランにもそれは良く分かっていた。アジドがいたから、今まで仲間としてまとまってきたのだろう。
「グエン、俺達は…」
「悪いな、暫く一人にしてくれないか」
「…分かった。ヤケは起こすなよ」
アランが部屋を出る前に、壁を激しく叩く音が、二度その場に響いたのだが、彼はそのまま立ち去った。
そして、自室に戻ると、彼自身も涙が溢れてきたのである。
アランはもう二度と会えない友人の言葉を思い出していた。
「俺達、何があっても友達でいような」
こんな日が来るのを、誰もが心の何処かで思っているのではないか。アランにはそう思えてならない。
そして誰もが願わないことが、起こってしまった。
その日の夜の静けさが、アジドの死を思ってのことのように、アランには感じてならないのだった…

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