秋 (前)
それは突然やってくる。ずっと唐突にやってくる。原因を探った。
秋になるからだ、と自分に言い聞かす。空気や見栄えが悉く変化する季節に、秋という名前に出会う。
あぁ、何年も前に遡る記憶になったんだなぁ。
名前負けしない、雰囲気の心地良さを持つ、その人。適度な温度の手と腕が印象深い。肩からサラサラと、秋はやってきて、胸の前に手の平を重ねる。その行為に感情はどうしようもなくなり、ひどく胸打つと笑いながら云う。
『緊張することないでしょう?』
あぁ、愛々しい。秋はこれを「あいくるしい」 として使っていた。
丁寧な行為に応えるたび、感情のリアクションはどんどん追いつめられていく。為す術がなくなったら、秋はどう思うだろうか。しかし、結局のところ、その私の様子を感じつつ、喜ぶ秋がいるのを経験から断言できる。そして意地悪ににも、バランスが崩れかける刹那まで、どうしようもない愛々しさを高めてゆく。
あぁ、思い出すことすら慎重になってしまう。
『いい?』
顔を近づけて秋の口を訪ねようとするが、いつも唇は頬に流れ、そよ風と化す。私から唇を訪ねることは秋が許してくれず、その行為もまたさりげなく為され、心を沸騰させる。
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