マドレーヌをもう一度-第三章?
…ケイト・ブロード中尉の属した第二五五空戦隊の生存者は、隊員一〇二名中僅か一八名。無事帰還した彼女にも、現実が重くのしかかっていた。
かつての仲間だったグエン・ナムツェルを亡くし、さらに恋人だったアラン・シェリーが、自分をかばって死んだという事実は、彼女の心を深い闇に落としてしまったようだった。
ケイトは重い足取りで、宇宙港の通路を歩いていた。俯いていたため、前に人がいる事にすぐに気付かない。
相手の足先をみて、彼女はゆっくりと顔を上げた。
そこにいたのは、憔悴した表情のリン・ケリーだった。
「無事…だったのね」
ケイトは力無く笑いかけて言った。
ケリーは何も言わず、静かに頷いた。
お互い、暫く見つめ合う。
短い時間だったが、彼女達にはとても長い刻に感じられた。
ケイトは次に何か話そうとしたが、言葉が出ない。
代わりに、涙があふれ出たのである。
「ケリー、アランは…」
やっとそう言ったのだが、沸き上がる感情を抑え切れない。
アランの事、戦いの事、候補生時代の事…。この短い時間に、時間を跳び越えてきたように、胸に溢れ出る思い。手で拭っても、とても拭いきれない。
「アランは…」
「分かってる」
ケリーは短く応えた。ケイトは最初は気付か無かったが、目の前の親友もまた、涙を流していたのである。
二人の横を、帰還した兵士が幾人か過ぎていく。彼女達にチラリと視線を向けるが、また何も無かったように歩いて行く。
「これ」
ケリーは思い出したように、一通の封筒をケイトに差し出した。
「アランに頼まれたの、あなたに渡してくれって。…出撃の前にね」
ケイトは、手の震えを抑えて受け取り、ゆっくりと、しかし焦って手紙を 開封した。
「親愛なるケイトへ」
この手紙を見てる頃は、皆無事に戻っていると思う。
そしたら、また集まって飯でも食べたいな。
その時に頼みがある。
前に、ケイトがマドレーヌを作った事があったよな。
あれが忘れられないんだよな。
今度はみんなで食べよう。
楽しみにしてる。
じゃあ、また後で。
…ケイトはその場に泣き崩れた。ケリーはその前で、泣きながらずっと立っていた。
何も言わず、ただ、ずっと。
…こうして、「アルテミシオン星域会戦」は、連邦の歴史的大敗によって幕を閉じ、その勢力圏は大きく後退したのであった…
かつての仲間だったグエン・ナムツェルを亡くし、さらに恋人だったアラン・シェリーが、自分をかばって死んだという事実は、彼女の心を深い闇に落としてしまったようだった。
ケイトは重い足取りで、宇宙港の通路を歩いていた。俯いていたため、前に人がいる事にすぐに気付かない。
相手の足先をみて、彼女はゆっくりと顔を上げた。
そこにいたのは、憔悴した表情のリン・ケリーだった。
「無事…だったのね」
ケイトは力無く笑いかけて言った。
ケリーは何も言わず、静かに頷いた。
お互い、暫く見つめ合う。
短い時間だったが、彼女達にはとても長い刻に感じられた。
ケイトは次に何か話そうとしたが、言葉が出ない。
代わりに、涙があふれ出たのである。
「ケリー、アランは…」
やっとそう言ったのだが、沸き上がる感情を抑え切れない。
アランの事、戦いの事、候補生時代の事…。この短い時間に、時間を跳び越えてきたように、胸に溢れ出る思い。手で拭っても、とても拭いきれない。
「アランは…」
「分かってる」
ケリーは短く応えた。ケイトは最初は気付か無かったが、目の前の親友もまた、涙を流していたのである。
二人の横を、帰還した兵士が幾人か過ぎていく。彼女達にチラリと視線を向けるが、また何も無かったように歩いて行く。
「これ」
ケリーは思い出したように、一通の封筒をケイトに差し出した。
「アランに頼まれたの、あなたに渡してくれって。…出撃の前にね」
ケイトは、手の震えを抑えて受け取り、ゆっくりと、しかし焦って手紙を 開封した。
「親愛なるケイトへ」
この手紙を見てる頃は、皆無事に戻っていると思う。
そしたら、また集まって飯でも食べたいな。
その時に頼みがある。
前に、ケイトがマドレーヌを作った事があったよな。
あれが忘れられないんだよな。
今度はみんなで食べよう。
楽しみにしてる。
じゃあ、また後で。
…ケイトはその場に泣き崩れた。ケリーはその前で、泣きながらずっと立っていた。
何も言わず、ただ、ずっと。
…こうして、「アルテミシオン星域会戦」は、連邦の歴史的大敗によって幕を閉じ、その勢力圏は大きく後退したのであった…
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