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桜〜夜舞桜〜

[142]  MARI  2007-10-03投稿
『――――…。』
一人の女が目を覚ましたのは、一軒の宿屋。
障子戸を開け放ち階段を駆け降りると、女将の姿を探した。
女は昨晩、此処の二階に運ばれたことを知らされる。
故に昨晩の記憶を女は思い出す。
…確かに、己は追われていた。それも数人、集団に、だ。
けれど女の体に、傷は一つもない。
女将は言った。
『若い、背の高い男だったよ。アンタを抱えてきたのは。』
しかし女には、“背の高い男”以前に、この地に己の知るものはいない。
女は、つい去る月に西の方から上京してきた者であり、東に縁のある者はいないのだ。
『…アンタ、何したんだい?小袖の袖口、血でベットリだったんだよ。……あと、これ。』
女に差し出された物は短刀。それは脇指の大きさに近い、女が持つには相応しくない色を放つ。
そして綺麗に畳まれた、小袖と紅蓮色の袴。
『!……洗ってくれたの…』
『ええ。お代はいらないよ。あの男が置いていったからねぇ。』
『!…宿代も?…どちらの方――…。』
『よく見ない顔だったからわからないね。金だけ置いてさっさと出て行かれたよ。』
『…………。』
女は短刀を握る。
身体に異常がないことを確認すると、小袖と袴を纏った。
女将を横目に、女は口を開く。
『…この地に、佐伯昌仁という者がいると聞いて私はこちらにきた、…知らないか?』
女将は眉を捻り暫く考え込むが首を横に振る。
女は『そう。』とだけ頷いてその場を立ち上がった。
短刀を、袖の奥へと仕舞う。そうして障子戸に手を掛け女将に小さく礼を呟いた。
女は宿屋から出る。
まだ、朝の光。眩しさで目は、地へと落ちる。
暖かい風。冬の薫りを帯びる冷たい空気はもう感じられない。
何やら先行く道は賑わしい。
点々とずっと先まで見える色鮮やかな提灯の横には、並ぶように桜の木々が立つ。
風が吹く度舞踊る。花びらたちの宴―――…。
『………。』
女は只呆っとその様子を眺めている。
一番大きな桜の木を前にして、足は止まった。
『……ここは―――…。』
一瞬にして記憶は蘇る。
朧なる月の下、舞広がる、桜色。それに相対するように広がる鮮血…。桃の色が頬を掠めたのが、最後の記憶――…。
『……支え、られた…?』
女は、知らずと左手を右手で掴んでいた。
何故か残る、支えられた感覚――。
記憶は、曖昧すぎた。

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