雪の華32
バシィィィ──
部屋に響き渡る衝撃音。おもいっきり殴られた身体は吹き飛び、背後にあった椅子にぶつかる。
背中と頬に激痛を感じながら黄藍が顔を上げる。
目の前には、怒りで身体を振るわせる白藍の姿があった。
「────ッなん…でや……なんでや!!」
怒りの表情とは裏腹に、発するその声は悲しみに満ちていた。耳を塞ぎたくなるような悲痛な声。
「──……お前との婚約を解消したかったからだ」
「だから……だからなんでやって聞いてんねん!! 何で解消させたかったんや! 何でお前が……朱斐……と……」
黄藍が立ち上がり、口端から流れていた血をグイッと手で拭った。
「……朱斐のこと……好きじゃなかったんだろ? なら気にすることないじゃないか……俺と朱斐がどうなろうが」
その言葉を聞いてカッとなった白藍がまた拳を振り上げた。
パシッ
最初と違い白藍の拳は、防御され、手のひらで受け止められている。
それでも白藍は、力を抜くことなく拳を押している。
「……うや……そうや! 朱斐のことなんか好きやない! 女としてみてない……オレが怒ってるんはお前にや!」
「───……」
「なんで裏切った? お前言ったやん? 朱斐を手に入れろって大事な駒やって……オレらは……同じ……だった」
白藍の顔が歪み、拳の力も弱まる。
「オレら……二人だけやった。他はみんな駒でしか無かった……なのにお前は裏切った」
黄藍は黙ったまま、白藍の悲痛な叫びを聞き続ける。
「……朱斐が好きなんか? オレを……置いて……一人で……行くんか?」
ずっとずっと二人だった。
汚い大人の中で生きてきた。
有益無益・嘘偽り・偽善。
綺麗なものなんか無い世界。
将来のための英才教育、異常な日々を送った。
息苦しく、心が死んでいくのが分かった……
でも二人だったから……
一人じゃなかったから───今まで
「なんで──お前やねん。なんでオレを裏切るやつが……よりによって……お前なんや……」
ガクッと床に崩れ落ちる白藍を見下ろす黄藍。
黄藍は無表情。その無表情から冷たさが漂っていた。
「いつまでも一緒にはいれない」
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