最後の恋
2005年の早春、担当がえの季節、前任の佐藤さんが後任の川上さんを売り場に連れてきた。『もう、前から知ってるしお互い気心知れてるから大丈夫ね…売り場もベテランだからわかるでしょ?よろしくです』私はそう言って二人に軽く会釈した後、接客に従事した。川上さんは多種のメーカーを取り扱うベンダーで売り場の改装や棚替え時には応援に来ていたから顔見知りだ。実直で仕事熱心、この人ならって期待も大きかったし私自信凄く頼りにしていた。ルックスは…私の視界には入っていなかった…まだ、その頃は。 川上博之 33歳 彼が私の中で男になって行くのにそう時間はかからなかった。 その日体調が悪く会社を休んでしまった私は携帯の着信にも気付かず深い眠りに入っていた。何度目かのコールでやっと目覚め、起きぬけな声で電話に出た。いつも仲良くしている某メーカーの田中さん。『大丈夫?お休みって聞いて、悪いかなと思ったケド…』『うん、貧血みたいで、ダルい…2、3日したら行けると思うから』『よかった…お大事にね。今日、川上さんも来てるんだケド凄く心配してる。貴方のアドレス教えてくれって言ってる…どうする?』『そうか…担当なのに教えてなかったね…いいよ、教えてあげて』『ん〜彼は仕事の要件ダケじゃなさそうよ』その時は田中さんとの会話でさえ億劫なくらい早く眠たかった。結局私はなかなか回復せずそのうち腰まで悪くなるしまつだった…彼が売り場にラウンドした時には必ずメールが入っていた。時折体を気遣う電話も。有り難さを感じながらも私は売り場が気になって仕方なかった。3週間後私はようやく復帰した。あれもこれもやらなきゃならない事で頭がいっぱいだった。事務所でタイムカードを押して流行る思いで売り場へ。するとそこには首にタオルを巻き汗をかきながら商品の補充をし尚且笑顔で接客までこなしている彼がいたのだ。片道1時間半かけてしかも私より早く売り場に従事し商品の陳列をやっていたのだ。定番も崔事も全て完璧だった…私が休みの間殆んど毎日早朝から来てメンテをしてくれていたらしい。そんな事一言も彼は言わなかった。 あれから2年、彼のルックスは私の中でいっぱいに広がり文字通り最後の恋、最後の人になった。川上 博之 36歳 仁美 33歳 2007年 3度目の秋です。
感想
感想はありません。