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せんぷうき-1

[193]  千里亜実  2007-10-19投稿
ミーンミンミンミーン―。
窓の外からアブラゼミの暑苦しい鳴き声が聞こえる。でも、そんなことさえも、風(フウ)には懐かしく思えた。
それは―風が高校二年生の時の夏だった。風の双子の兄の颯(ソウ)が、家出をした。颯はよく親とケンカをする。しかし、家出をする前の晩のケンカは今までになく激しかった。風が布団に潜り込んですぐに、父親の怒鳴り声や母親の悲鳴が聞こえ、激しい物音がしたあと、おさまった。
気にかかった風は起き上がって颯がくるのを待った。
「颯…どうしたの?なんか、いつものケンカじゃないみたいね」
すると颯は、
「ははは、いつもケンカばかりで、父さんも気がたってるんだ。しょうがないよ」
そう言って、いつものように、布団に潜り込んだ。
「そう…ならいいけどさ」
「もう寝な、風。おやすみ」
「ん…おやすみ」
颯と風の間のカーテンをしめると、風は眠りについた。
翌朝目が覚めると―。
颯の姿はなかった。
親は颯の居場所は分かっていたようけど、あえて引き戻したりはしなかった。たぶん、もう颯とやっていく自信がなかったんだろう。そのまま、違うマンションに引っ越し、風は一人暮らし。一人暮らしとはいっても、隣の部屋には親がいるけど。とにかく、颯のいない新たな生活が始まった。
最初は、もしかしたら学校から帰ってきたら、部屋の前に颯がいるんじゃないか?とか思ってた。けど、二週間過ぎた頃には、そんなことも思わなくなった。
ふと、今日の夕飯、何にしよう?という考えが浮かんだ。隣に親がいるとはいえ、一応一人暮らし。料理は自分で作る。
「焼きそばにでもするかぁ…」
ん…と背伸びをして起き上がった。
それから、机の上の小型扇風機を取って、汗でヌルヌルする背中に当てる。扇風機はプルプルと音をたてて、風の背中を冷やす。
「これは颯との…思い出だから…」
思い出の。
扇風機―?
ううん。
思い出のせんぷうき。
「颯は…まだ持ってるかな?このせんぷうき」
持っていてほしい。
だって
今の風と颯は
この
せんぷうきでしか
繋がってないから―。
「待ってるからね…颯」
あなたのその笑顔が見られる日まで―\r
「…待ってる」



















続く

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