枝と桜と。〜Prologue
夏が終わった。
勢いをつけたように季節は巡って、気付いたら緑は散っていた。
「まぢ早い…」
神奈川県横浜市。
指折り数えたら何往復もしている溜息を飽きもせずに繰り返す澪(ミオ)。
空を仰げば真っ青で綺麗だが、澪の心の内は違う意味で真っ青が広がっていた。
公園のベンチに座りながら見る風景は優しい。子供が無邪気に走り回り、それを穏やかな目で見つめる母親達。時折、愛犬も一緒になって鬼ごっこだ。
そんな光景を見つめると澪は手の上に置いてある指輪に視線を戻した。
「……早ぁ」
同じ言葉を繰り返して胸の中で嫌な寂しさが込み上げてくる。
澪は指輪を握り締めて俯いた。
北海道小樽市。
直に訪れる冬を予感させる寒い風が吹く。分厚いジャンバーを着ていたってやはり肌寒い。
「冷えて来たのぉ…」
ジャンバーの上から腕を摩る雅文(マサフミ)。
トボトボという効果音が似合いそうな足取りで向かう先は病院。
今の気持ちを表すように、何も無く、ただ広い道を見つめると自然と溜息が出た。
「…潮時かのぉ」
雅文は持っていた紙を握り締めながら空を見上げた。
静かな道をどこかで犬が鳴いた。
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