神楽舞闘伝
風が舞っていた。辺りには焦げた臭いと見渡す限りの残骸。
「…これは夢なのか」
青年は呆然と立ち尽くし鳴り響く頭痛を抑えようとするかのように額を抑えていた。焼けた場所、かつてそこには人の営みがあった。小さいならがも助け合いながら暮らす一族がいた。彼の一族 だ。武道、舞踊を得意とし宮廷にも多く仕えその名を各国に轟かした一族―神楽。しかしその故郷は無惨にも焼き払われ現在は残骸を残すのみだった。
「漣?」
ふいに自分の名を呼ばれて我にかえり漣は弾けるように振り返った。そこにいたのは柔らかい栗色の髪の青年。怪我でもしているのだろうか左肘から下を布で巻いている。
知らない顔だ。不信感をあらわにして警戒した漣を見て声をかけた青年は苦笑し左手に無造作にぐるぐると巻かれていた布を取って見せた。そこには美しい幾何学模様の入れ墨とそれを打ち消すようにつけられた大きな古い傷。
「…榊大地?」
見覚えのある傷痕に自然と名がこぼれた。
「顔は見忘れても自分が付けた傷は覚えてるんだな」
漣の警戒が緩むと皮肉と笑顔が返ってきた。
そうだあの傷は自分がつけたものだった。榊家では10才から入れ墨を施される。熱した針と色を付ける為の劇薬、その苦痛に堪え入れ墨が完成することで成人とみなされる。大地も慣例にしたがい入れ墨を入れた。しかし大地の入れ墨は幼い漣によって傷つけられ未完のままに終わったのだ。
「来いよ。腹減ってるだろ」
大地は足場に注意もせずに瓦礫の中を進み大きな樫の木の下に漣を案内した。古い樫の周りの瓦礫は片付けられ小さな広場になっていた。その樫を取り巻くように大小の石が並ぶ。その石のひとつの前に屈むと大地はそっと花を添えた。
「墓…なのか」
「ああ。俺の妻と娘の墓だよ。今はこれくらいしかしてやれないけどな」
後悔が大地の表情を曇らせる。
「大地、俺がいない間になにがあったんだ?」
間が開いた。やがて大地は墓石から目を逸らさずに語りだした。
「宮廷のヤツらが言い掛かりをつけて11代目を…お前の親父さんを殺したんだ。そして11代目の後を継いだ楓さんを宮廷に監禁し…一族を皆殺しにして火をつけたんだ」
大地の声が震える。漣の頭の中は真っ白になっていた。…父さんが死んだ?姉さんの生死もわからない。理解したくないと気持ちが叫ぶ。
「…これは夢なのか」
青年は呆然と立ち尽くし鳴り響く頭痛を抑えようとするかのように額を抑えていた。焼けた場所、かつてそこには人の営みがあった。小さいならがも助け合いながら暮らす一族がいた。彼の一族 だ。武道、舞踊を得意とし宮廷にも多く仕えその名を各国に轟かした一族―神楽。しかしその故郷は無惨にも焼き払われ現在は残骸を残すのみだった。
「漣?」
ふいに自分の名を呼ばれて我にかえり漣は弾けるように振り返った。そこにいたのは柔らかい栗色の髪の青年。怪我でもしているのだろうか左肘から下を布で巻いている。
知らない顔だ。不信感をあらわにして警戒した漣を見て声をかけた青年は苦笑し左手に無造作にぐるぐると巻かれていた布を取って見せた。そこには美しい幾何学模様の入れ墨とそれを打ち消すようにつけられた大きな古い傷。
「…榊大地?」
見覚えのある傷痕に自然と名がこぼれた。
「顔は見忘れても自分が付けた傷は覚えてるんだな」
漣の警戒が緩むと皮肉と笑顔が返ってきた。
そうだあの傷は自分がつけたものだった。榊家では10才から入れ墨を施される。熱した針と色を付ける為の劇薬、その苦痛に堪え入れ墨が完成することで成人とみなされる。大地も慣例にしたがい入れ墨を入れた。しかし大地の入れ墨は幼い漣によって傷つけられ未完のままに終わったのだ。
「来いよ。腹減ってるだろ」
大地は足場に注意もせずに瓦礫の中を進み大きな樫の木の下に漣を案内した。古い樫の周りの瓦礫は片付けられ小さな広場になっていた。その樫を取り巻くように大小の石が並ぶ。その石のひとつの前に屈むと大地はそっと花を添えた。
「墓…なのか」
「ああ。俺の妻と娘の墓だよ。今はこれくらいしかしてやれないけどな」
後悔が大地の表情を曇らせる。
「大地、俺がいない間になにがあったんだ?」
間が開いた。やがて大地は墓石から目を逸らさずに語りだした。
「宮廷のヤツらが言い掛かりをつけて11代目を…お前の親父さんを殺したんだ。そして11代目の後を継いだ楓さんを宮廷に監禁し…一族を皆殺しにして火をつけたんだ」
大地の声が震える。漣の頭の中は真っ白になっていた。…父さんが死んだ?姉さんの生死もわからない。理解したくないと気持ちが叫ぶ。
感想
感想はありません。