枝と桜と。04
カチャッと硝子のぶつかる音が響いた。家には似合わないカップをテーブルに戻し澪はごめんね、と顔を上げて両親の反応を伺った。
カタカタと戸が揺れるのは北海道という所だからだろうか。少しだけそれが気になった。
「…後悔してないんだろ?」
「…してないよ。これが一番良い結果だったんだって…思うために帰って来たんだから」
「…そうか」
父親の口調がどこか穏やかなのは優しさなのか、同情のためか。どちらにしても、今の澪には温かいものだった。
「おかえり、澪」
「うん。…ただいま」
零れた笑みに照れるように俯く澪を父親は頭を撫でて笑った。調度、その時、母親が鍋を持って台所から戻って来た。澪の大好きな香りが家中を包む。
「ほら、雑煮だよ。冷めないうちにお食べ」
母親の言葉にパッと顔を上げてテーブルにかじりつく。そんな澪に笑いを隠さない両親。
「四年も経つのに、お前は一向に変わらないんだな」
「四年しか起ってないんだよ。変わらない、変わらない」
「まぁ、この子ったら」
小さな家を包むように優しい笑い声が響き渡る。古い屋根の下で三人。当たり前に思っていた環境が懐かしくて、大切に思えるのが不思議だった。
澪は満腹だー、と感想を述べると台所へ食器を片した。そんなことしなくてもいい、と言う母親にやりたいんだ、と笑う澪。カチャカチャと冷たい水で洗い物を終えるとフキンで手を拭き居間に戻った。
「澪、あんたの部屋、そのまま二階の使いなさいよ」
「物置になってない?」
「片すの好きなんだろ?」
澪は一枚取られた気分になりながら二階に上がった。隙間風が部屋へ上がる階段の床を冷たくする。ヒタヒタと足音が止まると久し振りの自室。
「……綺麗じゃん」
いつでも帰って来て良いんだよ、と囁かれているような。あまりに綺麗な部屋に目頭が熱くなった。
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