彼の恋人
高校生活最後の1年。
博文と臨のクラスは、定時制のクラスと共用している。と言っても、今の3年生が卒業する時に定時制は廃止されるので、そういうクラスは一つしかない。
となると、持ち出されるのが「恋の落書き伝説」だ。
「フフフ。ワクワクしない? 自分の席に誰かさんの落書きがあって、そこから恋が始まるの。全日制と定時制が一緒でないと起こり得ない奇跡よね?」
臨は自分の席をバンバン叩きながら下心を丸出しにする。博文が即座に突っ込みを入れる。
「でもねぇ、定時制の生徒はウチのクラスの半数以上だよ。それで、できるだけ前に詰めて席に座るから、最後列の席で落書きしたって気付かれにくいかもね?」
臨の席は最後列。下心は砕け散った。
3年生になって最初の授業が終わり、担任から進路希望のアンケートが配られた。アンケート用紙には、国公立大、私立大別に第2志望までの記入欄がある。
「みんな、取り敢えず地元の大学を選びたがるよな。まあ幸いレベルが高くて規模がでかいから、学問には不自由しないだろうけど。俺は留学を前提に経済学部」
「私は教育学部。学校の先生なんて憧れだけでは務まらないし、一番世間知らずな職業って言われるから一般企業も視野に入れなきゃ」
教師を夢見る臨は大学受験の段階で教師の現実を悟り、職業選択の幅を広げつつある。
「濱野谷もか……。モーリーも先生になれなきゃ福祉施設で働くって言うし」
「それじゃ、裕介君も千聖も『取り敢えず地元の大学』を選ぶのかな?」
「大学まで同じだった怖いなぁー」
夕刻になり、若者に混じって年配の男女が校舎に入っていく。彼等は定時制の生徒である。還暦を機に定時制に入った男がぼやく。
「本当にワシ等だけで寂しくなったのー」
「しょうがないよ。新しい定時制ができるから、ここは無くなっちゃうんだもん」
定時制では年齢差は関係ない。誰も平等だ。10代後半の若者が年配を相手にタメ口を叩き、年配が今時の若者言葉を躊躇う事なく口にする光景が日常的に見受けられる。
教室に入ると、生徒はそれぞれ指定された席に腰を降ろす。博文の席に、金髪に染めた若者が座る。佳純である。
博文と臨のクラスは、定時制のクラスと共用している。と言っても、今の3年生が卒業する時に定時制は廃止されるので、そういうクラスは一つしかない。
となると、持ち出されるのが「恋の落書き伝説」だ。
「フフフ。ワクワクしない? 自分の席に誰かさんの落書きがあって、そこから恋が始まるの。全日制と定時制が一緒でないと起こり得ない奇跡よね?」
臨は自分の席をバンバン叩きながら下心を丸出しにする。博文が即座に突っ込みを入れる。
「でもねぇ、定時制の生徒はウチのクラスの半数以上だよ。それで、できるだけ前に詰めて席に座るから、最後列の席で落書きしたって気付かれにくいかもね?」
臨の席は最後列。下心は砕け散った。
3年生になって最初の授業が終わり、担任から進路希望のアンケートが配られた。アンケート用紙には、国公立大、私立大別に第2志望までの記入欄がある。
「みんな、取り敢えず地元の大学を選びたがるよな。まあ幸いレベルが高くて規模がでかいから、学問には不自由しないだろうけど。俺は留学を前提に経済学部」
「私は教育学部。学校の先生なんて憧れだけでは務まらないし、一番世間知らずな職業って言われるから一般企業も視野に入れなきゃ」
教師を夢見る臨は大学受験の段階で教師の現実を悟り、職業選択の幅を広げつつある。
「濱野谷もか……。モーリーも先生になれなきゃ福祉施設で働くって言うし」
「それじゃ、裕介君も千聖も『取り敢えず地元の大学』を選ぶのかな?」
「大学まで同じだった怖いなぁー」
夕刻になり、若者に混じって年配の男女が校舎に入っていく。彼等は定時制の生徒である。還暦を機に定時制に入った男がぼやく。
「本当にワシ等だけで寂しくなったのー」
「しょうがないよ。新しい定時制ができるから、ここは無くなっちゃうんだもん」
定時制では年齢差は関係ない。誰も平等だ。10代後半の若者が年配を相手にタメ口を叩き、年配が今時の若者言葉を躊躇う事なく口にする光景が日常的に見受けられる。
教室に入ると、生徒はそれぞれ指定された席に腰を降ろす。博文の席に、金髪に染めた若者が座る。佳純である。
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