雪の華36
『本当はもっと前からお前の事──』
目の前にいる大好きな人がそう言った。こんなに真っ直ぐ見てくれるのは初めてだった。
聖夜の唇が動くのを見ながら夢のような言葉が耳に伝わる。
でも──
「嘘……よ。ありえ……ない……だって……あんなに」
桃実さんにフラれた時あんなに取り乱した。お酒に逃げて我を忘れた聖夜を初めて見た。あれから少ししか経ってないのに──
ありえるはずがない──
私を好きだなんて
「……何? 私があんなこと言ったから責任を感じてるの? 聖夜が好きだからって……でも私は後悔してないしあなたのせいだなんて思ってない! 私は私の為にしたことよ!」
「朱斐……」
優しい声、名を呼ばないで
あなたのせいじゃない。
私が馬鹿だっただけ
「放して! 放して聖夜!」
「──……朱斐に初めて会った時……兄貴(黒峯)に似てないって言ったの覚えてるか?」
聖夜が朱斐の腕を掴んだまま、朱斐を放さず問う。
さっきまで必死に逃れようとしていた朱斐の動きが止まった。
「……それが?」
「〈似てない〉って言ったのはお前が初めてだった。まぁその言葉ですぐにお前の気持ちが分かって……俺はすぐに失恋した」
「何……意味が……分からない」
「出来の良い兄貴を持つと苦労するんだ。比べられたり過度な期待、兄貴そっくり……同じってよく言われた。桃実ですらよく似てるって言った事がある」
「どこ……が? 全然違うわ。黒峯は黒峯……聖夜は聖夜でしょ。似てない……同じじゃない」
聖夜は微笑し、掴んでいた手を放した。
「そう……でも誰も……朱斐以外は……桃実はどうしたって俺の後ろの兄貴を見るんだ。どこか〈似てる〉所を見付けては兄貴と重ねて……それを桃実は申し訳なさそうにしていた。
俺が本気で桃実を愛しているのを分かってくれていたから、でも桃実は兄貴(黒峯)を忘れられない。
いつしか俺達はお互い辛さだけしかなくなっていった。
桃実は兄貴を重ねる事への罪悪感。俺は結局身代わりで、傍にいるだけで十分だったけど……傍にいることで罪悪感を持たせ傷つける自分の存在が許せなくなってた」
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