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父の背中

[216]  ヨシ  2007-11-18投稿
亜紀は気がつくと、温かくて大きな背中に抱かれていた。
懐かしいにおいがする。幼い頃の光景が大粒の涙と共によみがえる。
父さんだった‥

………………………亜紀は中学に入った頃から父親を毛嫌いし始めていた。

いつも寡黙で、職人気質な父は、仕事があれば休みも取らず黙々と働いていた。
参観日も運動会も何もかも全て母親任せ。
父の顔を学校で見たのは小学3年の運動会が最後だった。

亜紀は父が自分に興味がないことを、いつも寂しく感じていた。
そしていつの間にか父のことを嫌いになっていた。

勉強の良く出来た亜紀は、中卒の父に時々悪態をついた。

「私は父さんみたいにならない。ちゃんと大学まで行って、ちゃんとした会社に入って、素敵な人と結婚するんだから‥」

父は仕事道具を手入れしながら黙って聞いていた。

「何か言ったらどうなの?こんなこと言われて何も言えないなんて頭悪すぎるよっ!」

「亜紀っ、おやめなさい」
いつも止めるのは母だった。
母さんもよくこんな父と結婚したもんだと、たまに母親さえ恨んだ。


高校に入った夏頃から、亜紀はグレはじめた。
学校で悪いと評判の連中とつるんで、一通りの悪さも経験していた。


少し肌寒くなったある日、つい口にした一言がきっかけで、亜紀は谷底に落ちるように、いじめられっ子に転落した。

それからというもの陰湿なイジメが毎日のように続き、亜紀は身も心もボロボロになっていた。

亜紀を心配した母は高校の先生に相談したが焼け石に水だった。
父は相変わらず何も言わない…。

そんな時だ。身の危険を感じる事件が、亜紀を襲った。

〜つづく〜

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