夢負人?
休み時間に入り、悠斗は教室を出て行った田上を追いかけ屋上に向かった。
何かあると屋上で休む。悠斗も田上も子供の頃からの癖になっていた。
扉を開けると冷ややかな風が足の間をすり抜けた。背中をつくような寒気に思わず身を縮こまらせた悠斗。
屋上には誰もいない。唯一フェンスの前に立つ田上以外は。
悠斗は気付かれぬように後ろから近づき、一歩手前でフェンスに飛びついた。
「たーがーみー君!」
田上は一瞬目を丸くして悠斗を見たが、相手が誰だか判ると安心したように微笑んだ。
田上は思ったよりも元気そうだった。あんな発言をした後だ、いくら信頼のある田上でもクラスの人間は好奇の目で見ていた。それが嫌で屋上に来たのだろうと悠斗は思っていた。
「お前いつからピエロ信者になったんだよ」
フェンスに足をかけ遊ぶ悠斗を、まるで弟の面倒をみているかのように眺めている。
「そんな宗教ないよ」
「じゃあ何でピエロなんて描いてたんだ?」
授業中に絵を描いている奴なんて何人もいる。誰かの似顔絵だったりガンダムだったり。けれどピエロを描いている奴の話なんて聞いた事がなかった。
田上はフェンスに寄りかかり街を見下ろしながら呟いた。
「見るんだよ……」
「見る?何を」
「出てくるんだ。毎日毎日あいつが……いや、あいつらが」
何故だろう。田上が心配で仕方ないのに、悠斗の心臓の鼓動は聞かない方がいいと知らせている。まるでこの先の何かを予言しているような……
「な、なぁ。何を見るって?」
この不安を早く解消して欲しい。ただそれだけで悠斗はその先を促した。
「ピエロだよ。毎晩夢の中で俺に言うんだ。忘れろ、忘れるな。忘れろ、わすれ……それから全員で……」
「田上?」
「は……はははは!」
突然狂ったように高笑いをする田上。目は血走り、頭を掻きむしる指先には微量の血がついていた。
「落ち着けって!田上!」
「悠斗……あいつらが言うんだよ。あのお喋りなピ……エロ……」
「田上っ!」
気を失い倒れそうになる田上を間一髪の所で支えた。
こんな田上は初めてだった。冷静で真面目な彼がこれ程までに追いつめられている。
夢……俺だけじゃなかった。毎日後味の悪さを感じさせるあの夢。
田上をあれだけおかしくさせるピエロの夢とはどんなものなのか。そしてピエロが言った‘忘れろ、忘れるな’とはどういう意味なのだろうか……?
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