彼の恋人
手芸部の溜まり場である被服室に、クラスの清掃当番が回ってきたのが運のツキだった。
秀は始めたら止まらないタイプで、清掃をチェックする教師の号令が出ても納得するまで終わらない。そうこうしている内に、手芸部の面々が被服室に入ってきた。唯一の男子部員である孝政が秀をいぶかしげに見詰める。
「ねぇ、君、入部希望者なの?」
「いいえ違います。ただの掃除当番です」
もう6月である。だが、修学館では部活動は自由参加で、3年間を通して無所属という事は珍しくない。
孝政は簡単にひかない。
「君、クラスと名前は?」
「普通科1年3組、橋本秀です」
「決まりだね」
一瞬、孝政の眼光がキラリと光った。
「言い忘れてたけど、僕は普通科3年の森孝政だよ。手芸が大好きだからって、常日頃から女の子から好奇の目で見られて、苦しかったよ。でも、そこが納得出来ないんだよ! 料理が出来る男は尊敬されて、手芸が出来る男は色眼鏡で見られるなんて理不尽じゃないか?」
「言われてみれば確かに……。ファッション専門学校に行けば男も服を作りますし」
「それは仕事をするために必要な事。好きで手芸をしていれば、周りの好奇の目なんて気にならなくなるよ。一人より二人さ!」
という経緯で、秀は手芸部の二人目の男子部員にされてしまった。
週に2日の活動日は、孝政のスパルタ指導から逃れられない。裁縫なら白い布切れに運針。編物なら鎖編み。それを延々と続けるのだ。後戻りは出来ない以上、秀は腹を決めるしかなかった。
「先輩の前で泣き言を言ったら終わりだ」
所変わって桜庭学園。
惇は弟の受難を笑って話す。
「弟を無理矢理手芸部に入れた先輩がチビでデブで不精髭の醜男でねぇ、ぬいぐるみを自分で編んじゃうんだってさ!」
「素晴らしい!」
暁は手拍子をついて感激する。
しかし次の瞬間、惇は表情を抑える。
「あんな奴がここに居たら居場所を無くすだけだよ。ウチはまだまだ保守的な先生が大きな顔してるからね。入らなかっただけでも幸せだと思いたいな」
「惇、ここで桜庭の体質を皮肉る事はないだろう?」
孝政の強引な部員勧誘を傍で聞いていたみくは、とても恥ずかしい思いをした。
「森君ったら……」
秀は始めたら止まらないタイプで、清掃をチェックする教師の号令が出ても納得するまで終わらない。そうこうしている内に、手芸部の面々が被服室に入ってきた。唯一の男子部員である孝政が秀をいぶかしげに見詰める。
「ねぇ、君、入部希望者なの?」
「いいえ違います。ただの掃除当番です」
もう6月である。だが、修学館では部活動は自由参加で、3年間を通して無所属という事は珍しくない。
孝政は簡単にひかない。
「君、クラスと名前は?」
「普通科1年3組、橋本秀です」
「決まりだね」
一瞬、孝政の眼光がキラリと光った。
「言い忘れてたけど、僕は普通科3年の森孝政だよ。手芸が大好きだからって、常日頃から女の子から好奇の目で見られて、苦しかったよ。でも、そこが納得出来ないんだよ! 料理が出来る男は尊敬されて、手芸が出来る男は色眼鏡で見られるなんて理不尽じゃないか?」
「言われてみれば確かに……。ファッション専門学校に行けば男も服を作りますし」
「それは仕事をするために必要な事。好きで手芸をしていれば、周りの好奇の目なんて気にならなくなるよ。一人より二人さ!」
という経緯で、秀は手芸部の二人目の男子部員にされてしまった。
週に2日の活動日は、孝政のスパルタ指導から逃れられない。裁縫なら白い布切れに運針。編物なら鎖編み。それを延々と続けるのだ。後戻りは出来ない以上、秀は腹を決めるしかなかった。
「先輩の前で泣き言を言ったら終わりだ」
所変わって桜庭学園。
惇は弟の受難を笑って話す。
「弟を無理矢理手芸部に入れた先輩がチビでデブで不精髭の醜男でねぇ、ぬいぐるみを自分で編んじゃうんだってさ!」
「素晴らしい!」
暁は手拍子をついて感激する。
しかし次の瞬間、惇は表情を抑える。
「あんな奴がここに居たら居場所を無くすだけだよ。ウチはまだまだ保守的な先生が大きな顔してるからね。入らなかっただけでも幸せだと思いたいな」
「惇、ここで桜庭の体質を皮肉る事はないだろう?」
孝政の強引な部員勧誘を傍で聞いていたみくは、とても恥ずかしい思いをした。
「森君ったら……」
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