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父の手紙

[267]  ナツコ  2007-11-26投稿
うっすらとした記憶のカケラ。殺風景な部屋に白いベッド。横たわる父の細い手をしっかりと握りしめる母の背中。涙を流しながらも優しく微笑む父の穏やかな表情。時が静かに鼓動をとめたみたい・・・

父は私が5才のときに亡くなった。25才という若さで。昔から体がよくなかったと母から聞いた事がある。

命が尽きようとする瞬間、父は何を望んだのだろう。母は何を願ったのだろう。

父は亡くなってから母に手紙を託した。遺品から出てきた手紙。いつ自分がこの世から旅立つかわからない。そんな想いを抱えながら、震える手にペンを握らせた。凛とした父らし字。所々滲んだ文字は涙の跡のようで。切なさが込み上げた。

長い年月を重ね、再び手紙の封を開けた。少し黄ばみがかかり、読みづらくなった父の手紙。滲む最後の文面。『いつまでも愛してる』・・・
色褪せた便箋に今も『愛』という文字が鮮明に鮮やかに輝いている。

父へ。貴方が愛した人は頼りなく目が離せない人です。すぐに涙も流します。私の側から離れる事がなく、困ってます。どうしようもなく手のかかる母です。でも、貴方の話をする母の顔はいつも幸せに満ちており、穏やかな笑顔を見せてくれます。私の好きな顔です。

母に出会っくれてありがとう。二人を愛してくれてありがとう。亡くなってからも心配かけてごめんなさい。貴方の事が大好きです。
11月26日。今日は40回目の父の誕生日。

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