バレット・シャーマン 1-1
「ソーマ准尉、ファロという神様を知っているか?」
11月となり雨期に入ったサバンナは、今日も迫撃砲さながらの容赦ない轟雷と豪雨によって水浸しになっていた。
恵みの雨、と呼ぶには荒々しいことこの上ない。
そんな糞ったれなまでに暴力的な水滴を受けながら、俺達、PIG大西洋方面軍第2歩兵師団2131機械化歩兵小隊はねぐらであるプレトリア駐屯地に向けて愛馬、いや、『愛豚』を走らせていた。
十五式多脚戦闘兵車と名付けられた我らが棺桶は、軍の内外から豚呼ばわりされている『結構』な代物だった。
「はい、いいえハワード中尉。初めて聞く名前です。…ソイツはどういった神さまなんです?」
俺は途中から言葉をやや崩して尋ねた。
俺より階級が三つ上のこの隊長は、軍人にしてはえらくフランクで階級というものを気にかけない人だった。腕はともかく人間的には軍人向きではないかもしれないとも思うが、そういう上司である以上、部下である俺はそれにあわせねばならない。
「西スーダンにいるバンバラ族の神でな、天空と雨と言葉を司っているんだそうだ」
「雨と言葉、ですか?」
「ああ、なんでも今ある世界は3番目に作られたもので、こいつが完璧なものになるためにはこの神様が降らせる雨から啓示される新しい言語と、そこから生まれる新しい文明が必要らしい」
「はあ…」
余程気の抜けた返事だったらしい。通信機ごしに中尉が吹き出すようにして笑うのが聞こえた。
「突拍子もない話だと思ったか?」
「…はい」
「俺もそう思う。だが、面白いとも思わんか?
今ある世界は何度か生まれ変わったあとの世界で、しかもまだ完成していないときている。
最悪でもないが最高でもない世界…。
前にも話したかもしれんが俺はこっちに来るまでは南方軍に出向していてな、そこでも似たような話を聞いたよ。
なんだったか…、テスカトリポカがどうとかといっていたな…。
まぁ、なんにせよ、人間て奴はいつの時代でも何処の国でも、自分達の居場所に納得しないものらしいな」
俺が返答に窮していると、不意に通信が割り込んできた。前方を走るヘアウッド曹長からだった。
「お話中すみません中尉、10時方向距離2000の位置に未確認の熱源を発見、数1」
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