夢負人?
煮だつ鍋にカレー粉を入れお玉でかき混ぜた。悠斗はなかなか溶けない粒を見つめたまま、夕方に出会ったあの夢路という男の事を思い出していた。
お喋りなピエロ……田上が夢に見るというピエロと一致している。
あの男は何か知っているのだろうか。夢負人などという職業があるとは思えない。しかし田上がおかしくなったのは夢のせいだ。そして悠斗の前に現れたあの男は夢に関する仕事をしている。
偶然なのだろうか。けれど偶然でなければ悠斗の知人に夢に悩まされている人間がいるのを知っていて現れた事になってしまう。
田上に相談するべきかどうか、考える程気持ちが重くなっていった。
「ごめんね悠斗」
背中からする声に振り向くと、カーディガンを羽織ったまませき込む母の姿があった。
「気にするなよ。寝てて大丈夫だから」
「でも……」
顔色の悪い母親を布団に寝かせようとした時電話が鳴った。
「電話だ」
「母さんが出るから」
「いいって。寝てなよ」
「これぐらいはさせて。ご近所さんかもしれないし」
半ば強引に受話器を取った母親。
誰かに言わなくても、父親が蒸発した事は近所に知られていた。家から出る度に刺さる周りの視線と同情の言葉で、次第に外に出なくなってしまった。それが原因だからこそ近所付き合いはあまりさせたくない。
電話の対応から比較的仲の良い人からだと判った。相槌を打つ母親を見て少し安心した悠斗は煮込んだままのカレーの様子を見に行こうとした。
「悠斗!」
しかしいつも小さな声で話す母親の大きな声に驚き振り返ると、いつも以上に顔を青くしてこう言った。
「田上君……倒れたって」
目が合ったまま二人の体は動かなくなった。
『せいぜいお喋りなピエロに気をつけるこったな』
あの男の言葉が悠斗の頭の中でこだました。
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