夢負人?
風呂上がりで濡れた髪を乾かした後、悠斗は自室のベッドに入り目を閉じた。
田上の見舞いは結局叶わず、今も時々うなり声を上げながら眠ったままだという。
何もしてやれない。歯がゆくも自分にはまた明日がある。朝食を作り洗濯もしなければ。
また学校の帰りにでも寄ってみようなどと考えていると、心地よいシーツの感触に誘われいつの間にか眠ってしまっていた。
誰かが苦しんでいる声がした。自分を呼んでいる気がする。起きなければ……
重たい瞼をこじあけ起きあがると、そこには田上がいた。
「田上……?」
パジャマのままうずくまり何か言っている。
「何だよここ……」
右も左もわからない程埋め尽くされた闇。光などどこにもないのに田上や自分の姿は見えた。
足下も見えないのに何故か立っている感触だけはした。その冷たさに悠斗は覚えがあった。
「田上!お前どうしたんだよ!」
田上は今病院で眠っているはず。それも絶対安静で外に出れるはずがなかった。
肩を揺すり何度も名前を呼ぶと、田上はゆっくり顔を上げ宙を指さした。
「あいつらが……あいつらが言うんだよ。忘れろ、忘れるなって」
「あいつら?何言ってんだよ、誰もいないじゃないか」
闇の中には確かに2人だけだった。しかし田上が指さした方向を見ると青白い、まるで火の玉のような光が浮かび上がり徐々に形を変えていった。
揺れながら変化する物体は目を凝らし見ると手形に見えた。それだけじゃない。真っ赤なボールやいやらしく歪む口。それらは一つの物体になる事はなく、個々に揺れ動いて増殖していった。
「何だよこれ……」
次第にはっきりしていく輪郭に田上は呟くように言った。
「ピエロだよ」
確かにそうとれなくはないが、とてもピエロと呼ぶにはそれ以上に妖しく形を成していなかった。
『来たヨ。来た』
甲高い声で噂話をするかのように騒ぎだす口達。
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