夢負人 完結
転がったみかんに触れた時流れて来たのは違う妖夢の気配。
「本当に危なかったのはお前だ。盲目の道化師は衰弱させる事はあっても人を死に追いつめる事は出来ない」
紅啄木鳥は悠斗が絶望の底まで行くのを待っていた。ずっと影を潜め悠斗が自分の罪に気付くようあの夢を見せていた。
「そうだったんですか……」
手を止め俯く悠斗。煙草をふかしながら夢路は頬杖をついた。
「あの、依頼料の事なんですけど……必ず返すんでもう少し待って貰えませんか」
普通の探偵事務所でも万単位は必ずかかると聞いている。もちろんバイトすらしていない悠斗達には支払える金額でない事は承知していた。
「いらねーよ」
「でも……」
「よくよく考えたら、俺もお前の依頼断ったし」
もっともな理由をつけてはいるが、夢路の配慮なのだろうと悠斗は顔を緩ませた。
「ありがとうございます」
「で、何でここで掃除してるの?」
「今日からここで働きます」
「……は?」
こんな汚い事務所につき合えるのは自分しかいない。何より自分と同じ苦しみに悩まされている人々を救いたいと悠斗は決意した。
「いっとくけど給料なんて出せないぞ」
「はい。見たらわかります」
あっさり肯定され自分が可哀想に思えた夢路。
「……勝手にしろ」
ずっと一人で暮らしてきた。そんな生活に誰かを招き入れるのも悪くはない、と夢路は悠斗に見えないよう微笑んだ。
夢負人……夢に入り込み苦しむ人間の盾になる役目を背負った者。
誰が決めたのかも由来も未だはっきりしていない。
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