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最後の歌

[279]  雨津  2006-04-04投稿
雨上がりの昼下がり…懐かしいあの場所へ。靴をしずくで濡らしながら、ビショビショの非常階段を駆け上がる。人通りのない路地のボロアパートの屋上。少年は目的の場所までたどり着くと、思いきりよく倒れこんだ。
…「静かだ。何も変わってないな。」…「寂しいまんまだ」少年が上半身だけ起こす、雨と泥で少年が着ていた制服のシャツはドロドロだ!…「汚ねぇ…」…クスッ。 その時少年の背後のドアが開いた。びっくりして少年が振り返ると白地に青い花柄のワンピースを着た少女が立っていた。少年を見て楽しそうに笑っている。少年は自分を見てクスクスと笑い続ける彼女に何か言おうとしたが、言葉が見つからない。「驚かすつもりはなかったんだけど、あんまり凄い勢いで向かって来るから、ドアの後ろに隠れちゃった!」まだ笑いたいのをこらえて、彼女が言った。そしてまたクスクスと笑いだす。…「あのさ、何がそんなにおかしいわけ??いきなり出てきて目の前で爆笑されても困るんだけど…」少年が言った。
「ごめんなさい。…ぷっふふ…ふ。」笑い続ける彼女。少年はだんだんあきれてきた。
まだ笑うかこの女!!と少年は思ったが、止める気にはならない。
…ようやく彼女が落ち着いたら、少年は名前を聞いてみた。「維津歌(いつか)!!!私の名前!!」…「ふ〜ん。維津歌…変な名前だね。」少年は言った後で後悔した。…だが維津歌は怒りもせずニカッと笑った。「でしょ??でも私は気に入ってる!!なんか、珍しいでしょ?」…「よく笑うんだね…怒るかと思った」少年はドキッとした。彼女には不思議な魅力がある…。
「あなたの名前は??」維津歌が聞き返した。「茜(あかね)…変だろ??」「ううん。男で茜って何か可愛い♪それに…似合ってる、顔が真っ赤!!」また彼女が笑った。
正直照れた。維津歌は美人だし、この名前を褒められたのは初めてだ。茜はますます赤くなる…気が付いたら維津歌との距離が近い!!「あの…さ、」茜が何か言おうとした…
「私、茜に会えて良かった。凄く嬉しい。」…いきなり何を言い出すんだ。と茜は思ったが、また赤くなる。
「私…茜好きだよ。」維津歌はそう言うと、茜の首に腕を回して強く引き寄せ…
すさまじい展開だった。むしゃくしゃする気持ちを落ち着かせようと雨の中ここにきて、知らない少女に出会い、されるがままに今、キスをしている…。
「維津歌、好きだ」茜が答えた。

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