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人魚の箱

[693]  あいじ  2007-12-20投稿

その日…
僕は行きつけのバーで慌ただしかった一日に終止符を打つべく静かに飲んでいた。
其処は場末のバーと云うヤツで僕以外に客は無く、静かに流れるシャンソンが侘しい夜を演出していた。

そんな夜だった。
あの男に出会ったのは…

そいつは浮浪者のような風体で静かに僕の横に腰を降ろした。

「旦那…すいやせんが一杯奢っちゃくれねぇでしょうか?」
僕はそいつの言葉を無視して残っていた酒を飲み干した。
すると男は汚ならしい頭を掻き上げ、溜め息を一つ洩らした。
「しょうがありません…一杯奢っていただけりゃ面白いモノを見せて挙げますよ…」
変な事を云う。
結局僕は好奇心に負けてそいつに一杯奢ることにした。
そいつは美味そうに酒をすすると、懐から木造りの『箱』を取り出してカウンターの上へそっと置いた。
「私は今こんなんですが昔は船医をやっておりましてね…」


あん時私はジャワへ向かう商船に乗り込んでおりました。
船は荷を詰め込む為に二・三日上海へ泊まることになりましてね…久しぶりの陸だったんで羽を伸ばそうなんて思ったんですわ
ハハハ…私もまだ若かったですからね
色々ありましたよ…
珍しい骨董品…
見たこともないような食べ物…
真珠や孔雀の羽を連ねた首飾り…
そんなものを見ているうちに私はふとあるモノを見つけたんでございますわ…


《続》

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