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彼の恋人

[139]  高橋晶子  2007-12-31投稿
翌々日、修学館では授業が再開した。事件のショックで学校に行けない生徒が博文のクラスにもちらほらいる。しかし、学校全体でこの悲劇を乗り越えなければならない。受験勉強の追い込みは、最悪の状況で始まってしまった。

全日制の授業が滞りなく終わり、教室内に生徒は博文のほかに数人いるのみとなった。3種類の菊と花瓶を抱えた女性が教室に入って来た。佳純のクラス担任・水落だ。水落は呟きながら博文の席に花瓶を置き、菊の花を見栄え良く挿した。博文は目が点になった。
「私達は鈴木さんと出会うまで、性同一性障害を他人事のように捉えていました。でも、鈴木さんの血の滲む様な苦しみに耳を傾けていく内に、クラス一丸で性同一性障害を理解し、鈴木さんの様な当事者を支援していこうと動き始めました。一昨日のディスカッションで性同一性障害をテーマに選んで学校全体や地域に偏見の払拭と理解を求めるつもりでしたけど、あんな事になってしまったのが残念です」
何と、博文は相手が佳純とは知らずに落書きしていた。顔馴染みの人物ながら落書きの事を裕介達に黙っていたのか? 驚きと後悔を通り越した感情が内から込み上げてきた。
「どうして面と向かって語り合わなかった? 本当の自分に気付いて欲しいなら、逃げる続ける必要はなかっただろ? 好きな人がいるなら臆せず告っても良かったじゃないか?」
顔をうつ向き感情を机にぶつける博文に顔を上げるよう、水落は促す。
「私はよく女子生徒の恋愛話に付き合っていますけど、鈴木さんは落書き相手の話をする時はとても生き生きしていましたね。自分とは違う世界に向かって一生懸命に生きる人が好きなようです。顔も知らない人なのに恋心を温めるなんて、不思議ですね」
教え子が一人殺されたのに努めて気丈に振る舞う水落の言葉は品があり、その場にたまたまいた他の生徒も事件で沈んだ心が解されていくようだった。因みに全日制の生徒の大半は水落とは面識はない。寧ろこんな教師がいる事を知らないくらいだ。

死して初めて知る真実に博文は納得いかなかった。せめて生きている内に知っていれば……。

時計の針は既に午後4時を回っていた。

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