金の月
二月二十三日...私の後悔の日。
あのころの夜は長くて、私にとって、まだ生活時間の範囲だった。現実を直視するのは金銭面だけ。もっとも、彼といるとそれすら見逃すようになっていった。
食事はいつも掌程度で、空腹という感覚はとうに無くなっていた。
ただ、彼との八畳一間の空間だけが、わたしのすべてだった。
夜になると彼は毎晩夢を語った。
「俺、絶対消防士になるわ。安定した収入とれる奴になって、お前は専業主婦。家事も今と変わらない、俺もやる。だから、無理しなくていいから、俺がいいっていうまでそばにいてよ。お前が迎えてくれる家に帰り続けるのが俺の夢。」
彼の夢の中に、自分がいれることが幸せだった。
私は、普通が難しい、情けない人間だから。
いつからだろう..色んなことを諦めることに抵抗を感じなくなったのは..少なくとも中学時代の私には夢があった。私の祖父は私が幼い頃から糖尿病を患っていた。一日千二百キロカロリーというわくの中で、美味しいものを食べさせようと、祖母が奮闘する姿を見て育った私は、自然に調理師という夢を抱いた。
私にとって、それは祖父母との絆でもあった。私の母は、私の前でも、いつでもオンナだった。母としての彼女を私は見たことがない。
私が四つの年、母はいなくなった。何の前触れもなく。そして私は初めてフツウを諦めた。思えば既にここから始まっていたのかも知れない。
あのころの夜は長くて、私にとって、まだ生活時間の範囲だった。現実を直視するのは金銭面だけ。もっとも、彼といるとそれすら見逃すようになっていった。
食事はいつも掌程度で、空腹という感覚はとうに無くなっていた。
ただ、彼との八畳一間の空間だけが、わたしのすべてだった。
夜になると彼は毎晩夢を語った。
「俺、絶対消防士になるわ。安定した収入とれる奴になって、お前は専業主婦。家事も今と変わらない、俺もやる。だから、無理しなくていいから、俺がいいっていうまでそばにいてよ。お前が迎えてくれる家に帰り続けるのが俺の夢。」
彼の夢の中に、自分がいれることが幸せだった。
私は、普通が難しい、情けない人間だから。
いつからだろう..色んなことを諦めることに抵抗を感じなくなったのは..少なくとも中学時代の私には夢があった。私の祖父は私が幼い頃から糖尿病を患っていた。一日千二百キロカロリーというわくの中で、美味しいものを食べさせようと、祖母が奮闘する姿を見て育った私は、自然に調理師という夢を抱いた。
私にとって、それは祖父母との絆でもあった。私の母は、私の前でも、いつでもオンナだった。母としての彼女を私は見たことがない。
私が四つの年、母はいなくなった。何の前触れもなく。そして私は初めてフツウを諦めた。思えば既にここから始まっていたのかも知れない。
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