レジェンド‐新世紀伝説 19
「テメエら!何もたついてんだ!」
劉源治が野獣のように咆えた。
一行はひとたび仕掛けにやられた後、行軍が著しく滞っている。
バシュッと音がしたと思った時、再び前方から悲鳴があがる。
「劉さん… こいつはいけませんや。 このままだと怪我人が……」
配下の年かさの男の進言に、青筋を立てていた劉源治はふいに険しさを収め、ニヤリとした。
「判った。 俺が先頭をいく」
穏やかとすら思える口調で言うと、劉源治は手近に生えている電柱ほどの木を抱え込んだ。
「ぬおおおおおぉっ!」
劉源治が気合いを込めると、メリメリと音がし始める。
ハーッ!という凄まじい気合いと共に立ち木を引き抜いた劉源治は、驚きに声もなくした一同を尻目に、陣頭に立って木を棍棒がわりに藪をはらい始める。
少林七十二芸のひとつ、【玉帯功(ぎょくたいこう)】であった。
更に【鉄布杉功(てっぷさんこう)】を習得している彼には、刃物のたぐいは通用しない。
罠をモノともせず突き進む劉源治は、たった一人で道を切り開いていった。
「さ〜て、そろそろコイツに血を吸わせてやらないとさ、ウヒヒヒ…」
ベロリと長い舌を出し、ナイフの長大な刄を舐める神(じん)の残忍な笑いを目にした田島は、背筋にゾクッとくるものを感じた。
(まともじゃねえな……)
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