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私が、死んだ日。3

[314]  1003  2008-01-23投稿
今でも鮮明に、あの時の拓海の私の胸をくすぐらせた笑顔を思い出せる。


*****


あれは、この『石川屋』でアルバイトを始めてから初めてのお給料が貰える日。
嬉しさの余りに少しだけ背伸びをしたくて、私はアルバイト先の皆に感謝の気持ちをこめたつもりで飲み物を差し入れた。
偉いなぁ、とかご馳走様、とか、社長や他の皆は口々に私に声をかけてくれた。そんな中、拓海の態度だけは違った。彼は、私達のやり取りにすら見向きもしなかった。
その態度に私は、調子に乗りすぎたのかな、とひどく落ち込んだ。

その日の仕事が終わって、休憩室のロッカーに荷物を取りに行くと、テーブルの隅の方にさりげなく何かが置かれているのに気が付いた。
それは、今日私が差し入れた缶コーヒーの空き缶だった。
近付くと、その空き缶の下には少しだけ癖のある文字で『うまかった。』と書かれたメモが置かれていた。

飾り気もない。名前もない。
不思議なメモを書いたのは誰だろうとしばらく考えていた時に、ひとりの女性社員がお疲れ様、と言って休憩室に入ってきた。

彼女は星野霞。二年前から『石川屋』に就職した。カメラの専門学校で勉強をしながら働いているらしい。
カメラマンを目指してるの、と屈託なく笑うその顔が印象的な人だった。


立ち尽くしたままの私とテーブルの上の空き缶を交互に見てから、霞はこう言った。
「あぁ。それね。拓海君よ。」
ふふっと笑ってからこう続けた。
「さっき私が休憩室に来た時慌てて出て行ったから。」


霞の言う事が本当ならば…、と少し考えてから私は驚いた。
それから、胸の奥で『何か』が弾けて広がった。
初めて感じた『何か』。
何だか胸は苦しいのに、全然嫌じゃない。


拓海の不器用な優しさに触れた私は、それから気が付けば拓海の姿を目で追いかけていた。
彼に会えるアルバイト中のわずかな時間が、その時の私の全てだったと言える位、その『何か』に私は振り回された。



感想

  • 8630: 1003さんの作品は何か引き付けられるものがあります。続きが楽しみです。 by歌子 [2011-01-16]
  • 8725: 歌子さん、1003です。 感想ありがとうございます! これからもどうぞお付き合い下さいね★ [2011-01-16]

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