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コンプレックス

[194]  さち  2008-01-28投稿
くわんくわん…。

ふわふわとしていて、でもちくちくとした何かが、からだ中をかけめぐるようだった。カスミの、何も捕らえていない空虚な目が微かに潤んだかと思ったら、次の瞬間につつ…と苦しみが頬を伝った。


部屋は四畳半。狭い一人部屋には二面に窓があって、電気カーペットやヒーターをつけても冷え冷えとしている。今もカスミはピンクのカーペットに横たわり、膝掛けを被ってうずくまっている。けれど耳や足先は冷たいまんまで、鼻はうっすら赤らんでいる。


(はあ…。)カスミはこの気持ちを誰かに伝えたくてもできないと諦め始めていた。たとえ話したところで、相手に理解してもらえるわけが無いのだ。


それは悲しいのとはちがう。嬉しいのとはちがう。腹が立つのでも、なんでもない。あるいは、そのどれでもだ。


まるで素敵な夢を見た朝の気分。突然見つけた新しい世界に目を輝かせたけれど、その世界に行こうとしたらガラスのカベがあったような気分。








カスミは魅了されたのだ。そして、囚われてしまった。恋だけど、恋じゃない。だって相手はいないから。














一冊の、本の中以外では。







単純な話だった。しかし、それゆえに彼女は苦悩した。







カスミは真剣だった。彼の存在はカスミをがんじがらめにした。

しかし彼女の胸には、非現実的なムスメの他に、現実的なオネエサンも住んでいた。オネエサンはいう。とてもいろんな事。冷たい目で、淡々と。
ムスメは泣く。カスミも、泣く。泣く事で、からだ中ぱんぱんに溜まった、間違った恋心を押し出す様に。

ぶちゅぶちゅと、だらだらと、流れて行く。どこまでも。




ふいにオネエサンは黙る。そして、彼女も少し泣く。








指先が冷たくて、セーターの裾を引っ張る。涙でぐしょぐしょの頬は一層冷えて、一層彼女を突き放す。
その時…ふいに冷えた耳からはくわん、くわんと音が聞こえてきた。

くわんくわん…。金属みたいな音。


カスミの濡れた睫毛は、どこもみていない。




くわんくわん。くわんくわん…。

カスミはゆっくり、目を閉じる。

感想

  • 8677: う〜ん、解らない。 [2011-01-16]

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