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想像の看守 ?

[521]  ユウ  2008-02-15投稿
コツ、コツ、コツ……。
靴音が、闇に包まれた廊下に高く木霊する。
黒い制帽を被り、黒いコートに身を包んだ女は、二重に巻いたベルトに差し込んだ銀色のスティックに手を置きながら、ゆっくりと通路を歩く。黒ずくめのその女の持つ、唯一の色は、猫のようにつり上がった大きな瑠璃色の瞳だった。
狭い道の両側を占め、延々と先まで続いているのは、囚人を閉じ込めた無機質な檻だ。
中からは人間のものとは思えない唸り声や、苦痛に満ちた叫び声が聞こえてくる。前を通り過ぎる女を憎しみに燃えた目で睨みつけ、柵にしがみついて低い声を上げる者もいた。
しかし女は、石のように無表情だった。美しい白い顔をツンと上げ、制帽からはみ出した少しくせのある肩までの長さの黒髪を揺らしながら、穏やかな歩調で歩いていく。ただ、強ばった肩の感じや、武器のようなスティックに手を置いたまま離さない姿からは、余裕が感じられない。女は実際緊張していた。しかしその時は、女の恐れていたような事態は起こらなかった。
やがて牢は途切れ、通路の向こうから光が漏れはじめた。女はようやく肩の力を抜いた。
(――今回の巡回も、無事終わったようね。)
光の漏れている部屋から、人の話し声がする。女は光に近づいていった。
その時、だった。
「っ!」
歓喜に満ちた、いやらしい男の叫び声が、聞こえた。
この場所に、喜びというものがあるはずがない。女のように牢に囚われていない存在でさえ、別のもっと重苦しいものに縛られなければならないのが、この場所の運命なのだ。
嫌な予感が、全身を貫いた。
胸がざわざわする。
だがその時、「ルリ!」と呼ぶ声が聞こえ、女――ルリ――は、振り向いた。
眼鏡をかけた、緑の瞳の少女が、光の溢れる部屋からひょっこりと顔をのぞかせていた。ルリとそっくりな格好をしている。真っ黒な髪や、肌の白さまでおんなじだ。ただ、制帽は被っていなかったし、髪はおかっぱで、何よりその瞳が違いを示していた。
「そんなトコで何してんの?巡回終わったなら早く入りなよ!」
「あ、ミドリ……。さっきの声を聞いた?」
「声?」
「たぶん男の囚人の。……嬉しそうな」
「ううん、聞こえなかったよ?気のせいじゃない?」
さぁそんなことより早く入りなよ!という声に急かされて、戸惑いを覚えながらも、ルリは手を引かれるまま、中に入ってしまった。
それが間違いだったのだ。

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