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想像の看守 ?

[417]  ユウ  2008-02-17投稿
朝の街中を、制服姿の少年がスタスタとそっけなく歩いていく。
ゴミ出しに行こうと自転車を引いて家から出てきた近所のおばさんが、見覚えのある青年の顔にふと目を留めた。
「ちょっとちょっと!裕一君!」
張りのある声に呼び止められ、裕一は迷惑そうに顔を上げた。
「……は?」
「は、じゃないわよ。アンタ、学校はそっちじゃないでしょ!」
その言葉に、思わず目つきが悪くなる。うるさいな、と言う言葉をなんとか飲み込み、裕一は無理ににっこりと笑ってみせた。
「今日は自由登校なんです」
「じゃあ何で制服着てるの」
「私服ないんで」
「へぇ〜…」
胡散臭そうに眉を寄せるおばさんを「じゃあ」と軽く流し、裕一はまたスタスタと歩き出した。
(めんど……)
おばさんが見えない所まで来ると、裕一はふぅーと息を吐いて頭をがりがりかいた。
学校へはここ1ヶ月ほど行ってない。裕一は県立高校の二年生だが、レベルの低い学校で、生徒の大半が不良。真面目な奴などどこにもいないので、裕一のように学校をサボる者がいても大して目立たず、とりたてて誰に迷惑をかけるでもなかった。
裕一は別に不良ではない。かえってその年の男子にすればまともな方だった。ただ、すべてのことにおいてやる気がゼロな少年なのだ。
(学校なんてなくなればいーのになぁ……)
とか思いつつ、裕一はほとんど空っぽに近いななめかけ鞄の位置をずらすと、“いつもの場所”へ向かった。
そこは裕一の家から歩いて20分くらいの所にある。打ち捨てられ、空き家のようになった小さな美術館だ。
広く土地を使ってるくせになぜか一階立てで、外壁はくすんだ青。いつ建てられたものなのか知らないが、風雨にさらされ、すっかり色がはがれてしまっている。人一人分くらいの幅に開いたまま停止した自動ドアを体を横にして通り、その奥の薄暗い闇へ、裕一は恐怖心もなく素っ気なく進んでいった。
通路を抜けると、かつて絵が掛かっていた場所だけ壁紙が四角く切り取られたように白くなっている。床に溜まっているほこりやゴミを蹴散らしながら歩いていくと、やがてぽっかりと大きな空間に出た。
そこはまるで――聖域のように見えた。
すべての美術品が取り払われたこの場所で、唯一残っている作品があった。それが、ホールと呼ばれるこの部屋の中心にしつられてある美しい白い大木である。

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