web×tear ♯03
『本当にいいの?』
私のとりとめもない話を、この恐怖を、この想いを、スミはきっと解ってくれただろう。
私を連れて行ってくれと再び言った所、そんな返事が返ってきた。
『うん』
下からは、父の怒号が聞こえてくる。
父はこっち来い、と叫んだ。
上へ上がってくる気配がする。
バタバタ、ガタンガタン。――交互に聞こえてくる音から察するに、母は父に引きずられていた。
『じゃあ、部屋借りて、一緒に住もう。』
その返事を見た瞬間に、胸が張り裂けそうなほど、苦しくなった。
純粋すぎるほど素直に、嬉しかった。
『うん』
母の声が、ドアの外で聞こえる。
耳を塞ぎたくなるほどの、阿鼻叫喚。
でも私は、荷物をまとめる手を止めなかった。
お気に入りの服を二着と、財布、通帳と印鑑。…バイトで稼いだお金が、少しはあるはずだ。
足りないものは、買えばいい。
スミを頼ればいい。
支度が出来た。
首筋や頬を流れ、目元に溜まり、鞄にぼたぼたと垂れた雫を、強く擦って拭った。
『じゃ、今から出るから。』
彼は私の地元をよく知らない。
私は彼の地元をよく知らない。
だから、二人が知ってる東京・新宿駅で待ち合わせする。
『俺もすぐに向かうから。
どっちかが遅れても、じっと待ってるんだよ?』
私はその返事を見て、携帯を閉じた。
限られてはいても、東京は、新宿は、広い街である。
巡り逢えるかどうかも、まだわからない。
でも、――もともと偶然出逢った二人。偶然同じ携帯。同じ想い。
不思議と怖くはなかった。
私は小さな鞄を持って、ノブに手をかけた。
開けるとそこには、真っ赤な顔をして母の上に覆い被さっている父と、息が詰まって悲鳴すらあげられない母がいた。
私はその瞬間、今まで感じたことのない苦しさと痛みと衝撃を受けた。
きっと全身をバラバラにされたらこんな感じなのだろう。
「ごっ…」
二人の視線が私に向けられた。
涙が出そうになった。
「ごめん、母さん。
私出てく。」
走って階段を下りて、靴を履いて外に出た。
背後から父の罵声が聞こえたが、目を向けている余裕はなかった。
私は駅に向かって走り続けた。
息が切れ始めて、口の中で鉄の味が広がった。
それでも私は、走り続けた。
どちらへ走っても、破滅が待っているとも知らずに。
私のとりとめもない話を、この恐怖を、この想いを、スミはきっと解ってくれただろう。
私を連れて行ってくれと再び言った所、そんな返事が返ってきた。
『うん』
下からは、父の怒号が聞こえてくる。
父はこっち来い、と叫んだ。
上へ上がってくる気配がする。
バタバタ、ガタンガタン。――交互に聞こえてくる音から察するに、母は父に引きずられていた。
『じゃあ、部屋借りて、一緒に住もう。』
その返事を見た瞬間に、胸が張り裂けそうなほど、苦しくなった。
純粋すぎるほど素直に、嬉しかった。
『うん』
母の声が、ドアの外で聞こえる。
耳を塞ぎたくなるほどの、阿鼻叫喚。
でも私は、荷物をまとめる手を止めなかった。
お気に入りの服を二着と、財布、通帳と印鑑。…バイトで稼いだお金が、少しはあるはずだ。
足りないものは、買えばいい。
スミを頼ればいい。
支度が出来た。
首筋や頬を流れ、目元に溜まり、鞄にぼたぼたと垂れた雫を、強く擦って拭った。
『じゃ、今から出るから。』
彼は私の地元をよく知らない。
私は彼の地元をよく知らない。
だから、二人が知ってる東京・新宿駅で待ち合わせする。
『俺もすぐに向かうから。
どっちかが遅れても、じっと待ってるんだよ?』
私はその返事を見て、携帯を閉じた。
限られてはいても、東京は、新宿は、広い街である。
巡り逢えるかどうかも、まだわからない。
でも、――もともと偶然出逢った二人。偶然同じ携帯。同じ想い。
不思議と怖くはなかった。
私は小さな鞄を持って、ノブに手をかけた。
開けるとそこには、真っ赤な顔をして母の上に覆い被さっている父と、息が詰まって悲鳴すらあげられない母がいた。
私はその瞬間、今まで感じたことのない苦しさと痛みと衝撃を受けた。
きっと全身をバラバラにされたらこんな感じなのだろう。
「ごっ…」
二人の視線が私に向けられた。
涙が出そうになった。
「ごめん、母さん。
私出てく。」
走って階段を下りて、靴を履いて外に出た。
背後から父の罵声が聞こえたが、目を向けている余裕はなかった。
私は駅に向かって走り続けた。
息が切れ始めて、口の中で鉄の味が広がった。
それでも私は、走り続けた。
どちらへ走っても、破滅が待っているとも知らずに。
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