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web×tear ♯03

[329]  成島パンナ  2008-02-18投稿
『本当にいいの?』

私のとりとめもない話を、この恐怖を、この想いを、スミはきっと解ってくれただろう。
私を連れて行ってくれと再び言った所、そんな返事が返ってきた。

『うん』

下からは、父の怒号が聞こえてくる。
父はこっち来い、と叫んだ。
上へ上がってくる気配がする。
バタバタ、ガタンガタン。――交互に聞こえてくる音から察するに、母は父に引きずられていた。

『じゃあ、部屋借りて、一緒に住もう。』

その返事を見た瞬間に、胸が張り裂けそうなほど、苦しくなった。
純粋すぎるほど素直に、嬉しかった。

『うん』

母の声が、ドアの外で聞こえる。
耳を塞ぎたくなるほどの、阿鼻叫喚。

でも私は、荷物をまとめる手を止めなかった。
お気に入りの服を二着と、財布、通帳と印鑑。…バイトで稼いだお金が、少しはあるはずだ。
足りないものは、買えばいい。
スミを頼ればいい。



支度が出来た。
首筋や頬を流れ、目元に溜まり、鞄にぼたぼたと垂れた雫を、強く擦って拭った。



『じゃ、今から出るから。』

彼は私の地元をよく知らない。
私は彼の地元をよく知らない。
だから、二人が知ってる東京・新宿駅で待ち合わせする。

『俺もすぐに向かうから。
どっちかが遅れても、じっと待ってるんだよ?』

私はその返事を見て、携帯を閉じた。

限られてはいても、東京は、新宿は、広い街である。
巡り逢えるかどうかも、まだわからない。
でも、――もともと偶然出逢った二人。偶然同じ携帯。同じ想い。
不思議と怖くはなかった。

私は小さな鞄を持って、ノブに手をかけた。
開けるとそこには、真っ赤な顔をして母の上に覆い被さっている父と、息が詰まって悲鳴すらあげられない母がいた。
私はその瞬間、今まで感じたことのない苦しさと痛みと衝撃を受けた。
きっと全身をバラバラにされたらこんな感じなのだろう。

「ごっ…」

二人の視線が私に向けられた。
涙が出そうになった。

「ごめん、母さん。
私出てく。」

走って階段を下りて、靴を履いて外に出た。
背後から父の罵声が聞こえたが、目を向けている余裕はなかった。

私は駅に向かって走り続けた。
息が切れ始めて、口の中で鉄の味が広がった。
それでも私は、走り続けた。

どちらへ走っても、破滅が待っているとも知らずに。

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