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想像の看守 ?

[393]  ユウ  2008-02-22投稿
その大木は白い石膏で作られていた。葉はついていないが、大枝小枝、ざらざらした木肌など、細部までよく作られている。
高い天井には天窓がついていて、そこから木の周りにだけ丸く光が差し込み、薄暗い室内の中でまるでスポットライトを浴びているみたいに浮かび上がっていたので、余計に聖域という言葉がふさわしく思えるのだった。
「――よっこらしょ」
と、木の根本に座り込んだ裕一は、鞄の中をあさって、一冊の本を取り出した。今読みかけの冒険小説だ。人のいる所で読むとどうしてもからかわれたりするので、裕一はここでしか本を読まない。高校二年生にもなって冒険小説はないだろ、とか自分でも思ったりするが、どうしてもやめられないのである。
(……主人公は最後どうなるんかな。死んだりすんのか?)
超無気力人間の裕一も、本の世界では物事に夢中になれた。本は何も言わず、ただ沈黙で物語を語る。それだから裕一は本が好きだった。心の底から自分だけの世界に浸り、安らぐことができたから。
固い幹に背を預け、あぐらをかいた足の上に本を開いて、裕一は物語の続きをたどり始めた。開いたままの自動ドアから、少し冷たい秋風が舞い込んできて、裕一のブレザーを穏やかに揺らす。あまり表情を変えない裕一は、淡々と文字を追った。
ページを二、三枚めくり、ようやく物語の世界になじんできた頃、通路の方から小さな物音が聞こえた。
裕一は静かに本から目を上げると、通路がある辺りを覆う闇にじっと目を凝らした。また音が。それは単なる物音ではない。――人の足音だった。
コツ、コツ、コツ……。
こっちへ向かってくる。
裕一は本を閉じると、音を立てずに立ち上がった。しかし、立ち上がっただけだった。十分に身を隠すだけの太さのある大木の裏に潜むでもなく、その場に平然と立っている。裕一はもともと自分自身の感情に鈍い。恐怖はあまりなかったし、焦ってもいなかった。ただ、想像していた。――闇から現れるは一体何者か?現実的に考えるなら、この美術館の様子を見に来た管理者。非現実的に考えるなら、気味の悪いイボイボのついた吐き気のするような悪臭を放つモンスター。近くにはいつの間にか剣が転がっていて、裕一は勇者のように勇ましく剣を取る――。
なんて、勝手な想像をしている内に、ソイツは光のもとへ現れた。
その異様な姿に、裕一でさえ言葉を失った……。

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