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おかめだ、おかめだ?

[166]  がき  2008-02-26投稿
 それから彼女の部屋まで向かう途中、私は全く落ち着かず、彼女の話も上の空で、嬉しいのは嬉しいのですが、何というか、色々な行程を一足飛びに飛び越えて、いきなり部屋にお邪魔するという非常事態にめまいすら覚えていました。
 そんな私の気も知らず、彼女は淡々と今宵の酒と肴をコンビニに寄って買い揃え、仮にも男のはしくれである私よりも、数段男前にどっしりと構えていました。
 ひょっとしたら私に襲われるかもしれないなどという心配は、彼女には無いのでしょうか。それとも、彼女には、私がそんなことをする覚悟も度胸もない、小心者の意気地なしに見えたのでしょうか。だとしたら、彼女は、少し甘い。
 いずれにせよ、私は今、こうして彼女の部屋にいます。当の彼女は部屋に入るなり、いそいそと掃除やら何やらに慌ただしく動き回って、「あんまりあちこち見ないでよ」などと恥ずかしそうにしています。恥ずかしがるくらいなら、はなから呼ばなければいいのに、何故彼女は敢えて私を部屋に招き入れたのか。少しだけ私は自惚れてみました。
「おうい、もうそのへんでいいだろう」
 私が呼び掛けると、彼女は観念したように掃除の手を止めて、しずしずと私に向き直って座りました。その時の彼女の頬が、見事に赤く染まっていました。
 どっしり構えているように見えて、実は彼女も、私と改めて顔を向き合わせるのが心底気恥ずかしがったようです。
「おかめだ、おかめだ」
 私は思わず手を叩いて笑いましたが、彼女は何のことだか一向に要領を得ない様子でした。

 彼女と、私と、差しでお酒を酌み交わすのが、私のかねてからの夢でしたが、それがたった今、成就しようとしています。
 目の前に彼女がちゃんと座って、卓上には、私の恋の行方を任せるにはいささか心もとない、安価で質素ですが、れっきとしたお酒とグラスが二つ。
「それじゃあ」
 私がおもむろにグラスを手に取ると、彼女もそれに合わせてグラスを持ち、そうして二人、ニコリと微笑み合い、
「乾杯」
 カチリ。
 夢のような時に包まれて、私は、今、おそらく世界で一番の幸せ者です。

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