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想像の看守 ?

[366]  ユウ  2008-02-27投稿
電話が鳴った。
カチャ。
「……はい」
「あ、裕一ー?お母さんだけど、」
「洗濯物なら入れた。雅文は迎えに行ったし、美里は帰って来てる」
「あら、さすが裕一ね!やることが早いわ。お母さん助かっちゃう!」
――アンタがやることだろ。
「……母さん今日も遅い?」
「うーん、それが、残業入っちゃってねぇ。悪いけど、夕飯の支度も」
「買い物なら済んでるよ。わかった、了解」
「ありがと!本当にいいお兄ちゃんねー」
「……そろそろ切るよ」
「あ、それと、裕一」
「……?」
「あんたちゃんと学校行ってるの?近所の高橋さんが心配してらして、わざわざうちに言いに来たのよ」
――あのクソババア、チクりやがったな。
「……行ってるよ」
「本当に?」
「本当」
「ウソついてたらお母さん、許さないからね?」
――こんな時だけ母親面か。
「わかった」
「うん、それじゃあね、うちのことよろしくね!」
「……」
カチャ。
裕一は電話機の側に突っ立ったまま、静かにうつむいていた。
五歳の弟と、十歳の妹が、居間でテレビを見て騒いでいる。
その喧騒も、潮騒のように遠くから耳にぶつかるばかりで、裕一の心の中までは入って来ない。
(そういえば、最近あそこに行ってないな)
廃墟のような美術館。だが、裕一にとって唯一安らぐことのできる“聖域”。
キンとかいうわけのわからない奴に来られてから、何だか行く気が失せてしまった。
(もうアイツもいないだろ。……いや、いたとしても関係ない)
あそこは裕一の場所だ。他の誰のものでもない、裕一だけの場所だ。
(いたら追っ払ってやる。管理者だろうが何だろうが関係ねぇ)
裕一は珍しくイライラしていた。仕事にばかり精を出し、学校へ行かせないくらいの量の家事を裕一に押しつける母親。安月給で家族を困らせる父親。うざったい学校。近所のクソババア。何もかもが。
裕一の神経を弱らせ、ストレスを抱えさせる。
胸の中で獣のように怒りが沸き上がってくる。
(今夜、行ってみるか)
裕一は決心して、夕食の支度に取り掛かった……。


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