桜と僕と…
桜が嫌いだった。
うす紅色の花が雪みたいに降りそそいで僕のアパートに入り込むから。
安アパートに一人暮らしの僕は、それでもまめに布団なんか干したり。
そんな時でも桜は、お構いなしに飛んでくるから…帰って来たら家中花の絨毯で。
掃除、バイト、洗濯、料理、バイト、掃除って具合に、「掃除」の割合が増えてしまう。
目下自腹で編み戸を検討するけど…布団、干せなくなるしね。
だから、桜が嫌いだ。
そんなとき、僕は布団についた桜をはたいて、その手を止めた。
彼女も僕を見ていた。
ビンテージジーンズを履いて、ガム噛んで、髪はまっ茶色で、柄悪い…のに、僕は見てしまった。
綺麗な、二つのアーモンドみたいな目。
キラキラ光って、まるで…。
「なに見てんの」
って言うから、つい
「桜」
ってさ。君を見てる、なんて言えるわけない。
「ふぅん」
彼女のガムが、フーセンになって、しぼんだ。
「そこから眺めっていいわけ?」
僕は頷いた。
マヌケなくらい強く。
それからしばらくして、彼女は、僕の
「彼女」になった。
それから、また春。
僕は編み戸を買った。
桜の花びらはもう入らないけど、彼女がいる。
桜より部屋を散らかす僕の彼女。
僕は前より桜が嫌いじゃなくなった。
桜の絨毯は、それなりに綺麗だったけど、僕はもっと綺麗なものを手に入れた。
二つの光るアーモンド。
僕は桜が嫌いじゃない。
きっと…そのうち…
好きになるだろう。
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