想像の看守 ?
闇の中から、真っ赤に燃える二対の目が、ギラギラと裕一をねめつける。
心臓が壊れそうなくらいバクバクしていた。何も考えられない。体が凍りついてしまったように動かなかった。
そいつは月光に惹かれるように、ふらふらとこちらへ近づいてきた。
近づくにつれ、何万もの蔓のような触手でできていた体が、徐々に形を定めていき、やがてボロボロの服を着た、一人の痩せた男の姿へと変わった。
男は光の輪の中には入らず、そのすぐ手前で止まった。相変わらず赤く光る目で、裕一のことをじっと見ている。
男は異様に白い歯をのぞかせると、にいぃっといやらしく笑った。
男が腰をかがめたのと、裕一が女に襟首をつかまれ、地面に引き倒されたのがほぼ同時だった。
「痛ッ!」
顔面を床にしたたかにぶつけ、思わず声を上げた。男が跳躍し、さっきまで裕一がいた所へ――今はスティックを構えた女がいる所へ飛びかかった。
背中で二人の気配が消えたのを感じ、バッと顔を上げると、女がホールの壁に叩きつけられた所だった。
「くっ…!」
女は壁に背中を押しつけたまま、銀色のスティックを横に構えて男に応戦している。男は異常な力でぐいぐいとスティックを押し続ける。やがて女が力負けした。男は女の白い喉にギリギリとスティックを押しつけた。
「がっ…!」
裕一は女の苦しそうな声ではっとなった。早く、助け、ないと……!
男は不意にスティックを投げ捨てた。女は壁に背中をつけたまま、ずるずると床に座り込む。女は、少し前の出来事を後悔していた……。
こいつはあの時のヤツだ。
巡回が終わって、<部屋>に帰ろうとした、あの時。
歓喜に満ちたいやらしい叫び声がしたのを聞いていながら、無視してしまった。
(どうしてかしらね?これが私の仕事だったはずなのに……。)
ミドリが呼んだせいじゃない。ルリにその気がなかったからだ。ルリはこの仕事に疲れていた。脱走者を捕まえ、牢に連れ戻すだけの退屈な仕事。もうこんなこと、やめにしてしまいたかった……。
男の足が容赦なくルリの腹にはいる。
げほっと息を吐き、ルリは床にくずおれた。わずか数メートル先に転がったスティックが目に入る。
(早く、捕まえ、なきゃ――……)
あの少年にも、被害が及んでしまう。
そういえば、少年の姿が見えない。無事に逃げたのかもしれない。ルリは薄く笑った。
心臓が壊れそうなくらいバクバクしていた。何も考えられない。体が凍りついてしまったように動かなかった。
そいつは月光に惹かれるように、ふらふらとこちらへ近づいてきた。
近づくにつれ、何万もの蔓のような触手でできていた体が、徐々に形を定めていき、やがてボロボロの服を着た、一人の痩せた男の姿へと変わった。
男は光の輪の中には入らず、そのすぐ手前で止まった。相変わらず赤く光る目で、裕一のことをじっと見ている。
男は異様に白い歯をのぞかせると、にいぃっといやらしく笑った。
男が腰をかがめたのと、裕一が女に襟首をつかまれ、地面に引き倒されたのがほぼ同時だった。
「痛ッ!」
顔面を床にしたたかにぶつけ、思わず声を上げた。男が跳躍し、さっきまで裕一がいた所へ――今はスティックを構えた女がいる所へ飛びかかった。
背中で二人の気配が消えたのを感じ、バッと顔を上げると、女がホールの壁に叩きつけられた所だった。
「くっ…!」
女は壁に背中を押しつけたまま、銀色のスティックを横に構えて男に応戦している。男は異常な力でぐいぐいとスティックを押し続ける。やがて女が力負けした。男は女の白い喉にギリギリとスティックを押しつけた。
「がっ…!」
裕一は女の苦しそうな声ではっとなった。早く、助け、ないと……!
男は不意にスティックを投げ捨てた。女は壁に背中をつけたまま、ずるずると床に座り込む。女は、少し前の出来事を後悔していた……。
こいつはあの時のヤツだ。
巡回が終わって、<部屋>に帰ろうとした、あの時。
歓喜に満ちたいやらしい叫び声がしたのを聞いていながら、無視してしまった。
(どうしてかしらね?これが私の仕事だったはずなのに……。)
ミドリが呼んだせいじゃない。ルリにその気がなかったからだ。ルリはこの仕事に疲れていた。脱走者を捕まえ、牢に連れ戻すだけの退屈な仕事。もうこんなこと、やめにしてしまいたかった……。
男の足が容赦なくルリの腹にはいる。
げほっと息を吐き、ルリは床にくずおれた。わずか数メートル先に転がったスティックが目に入る。
(早く、捕まえ、なきゃ――……)
あの少年にも、被害が及んでしまう。
そういえば、少年の姿が見えない。無事に逃げたのかもしれない。ルリは薄く笑った。
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