赤い月の下で
俺は今、これまでの人生で一番困惑している。今なら、全世界の高血圧メンどもを退け、見事ギネスを打ち立てる自信がある。 (落ち着け。マイ心臓。もう一度、確かめて、みるんだ。おし、行くぞ) 俺は大きく深呼吸をする。 「も、もう一度、言って、くれないか」「だ〜から、君は世界を魔王の手から救う勇者なの」 「はあ?」 この日、10月27日は、台風が通り過ぎて久しぶりに良い天気だった。が、俺はいつも通り遅刻寸前で、脇目も振らずに疾走していた。 (走れ、走れ俺!おい、まだ2分あるぞ。でも、間に合わないんじゃ…。間に合わせるんだよ!) 叱咤激励しながら走る俺。ちなみに、この銀杏並木から学校までは徒歩8分。教室に入るまでを考えれば、徒歩10分。帰宅部のエース(つまり俺)の走力と体力を計算に入れて、教室まで全力疾走6分強。 (絶望的だぁぁぁ〜!!まだだ!可能性は限界を超える!!諦めるな俺!) 途中、いかにも腰の悪そうな婆様を跳ねた気がするが気にしない。なんせ、今日はこんなに天気が良いんだ。この青空に比べたら、そんな些細な事は気にしない、気にしない。 (そんな事より走るぞ俺!!) 青空の下を素直そうで、優等生そうな少年(もちろん俺)が走っていった。 「すいやせんでした。掃除っすね。あい分かりました。放課後1人で掃除しま〜す」 ドアを開けるなり、早口&大声で叫ぶ俺。 「あっ…、お前か。早く席につ…いてるか」 指示を出すのに失敗して、所在なさげな担任教師。 (ふはははは!!俺に追いつこうなど一万光年早いわ、藤田!こちとら遅刻歴なら、貴様の教員歴より長いんだよ!ぬるい、ぬるいわ雑魚が!) 1人優越感に浸る俺。 「じゃ、人数も揃った事だし、ホームルーム終了」 椅子の上で優越感に浸りつつ、深呼吸で息を落ち着かせるお… こちらに担任が向かってくるのに気付く俺。
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