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MY、スイートホーム

[716]  ゆうこ  2008-03-27投稿
私には家族がいる。
妻の里沙と愛らしい盛りの娘、真奈。

里沙は今だに魅力的でいつも優しい笑みを湛えて私を見送ってくれる。
真奈は、たどたどしい言葉ながらも、一生懸命私に話し掛けてくれる。

私達は幸せを絵に書いたような一家だ。

私はその日も、いつもと変わらず会社に出かけていった。

もうすぐ真奈の二歳の誕生日だ。
何をあげよう…そんな事を会社の中でもつい、考えてしまっていた。

そんな時、会社の同僚は妙に気を使うような、張り付いたような笑みを浮かべ
大丈夫ですか?などと声をかけてきた。
先週、胃の痛みで病院に行った事を言っているのだ。
青ざめて見える自分の顔を手鏡で確認し、恐らく同僚らの間で、私は胃癌にでもされているのだと苦笑した。

大丈夫、と答え、何も言わずに書類を見遣った。噂好きに情報をくれてやる程、私はヒマじゃない
私はぼんやりと家路につきながら、明るく笑いあいながら通り過ぎていく家族連れを眺めた。

不意に、不安が胸に針のように突き刺さった。

何かを忘れているような…心許ない、迷子になってしまったような、不安感。

最近のニュースの中で氾濫している恐ろしい惨劇…まさか。

虫の報せ。

そんなことは…。

私は汗ばむ手で携帯を取り出し、自宅へと電話をかけた。

ワンコール
…ツーコール

五回程、呼び出し音がなったところで里沙の透き通る、優しい声が聞こえてきた。

留守にしております…発信音の後にメッセージを…

私は携帯をそっと戻し、目眩のする吐き気に襲われていた。
聞こえて当たり前の妻の声に、何故ここまで動揺するのか。

不吉な思いに苛まれて、私は歩き始めた。駅を出たところで、早足は紛れも無い駆け足になり…

私は激しい、脈打つような頭痛を伴いながらドアに鍵を差し込む。

暗い玄関。

暗示的に置かれた…揃えられたままの妻と娘の靴
私はリビングに向かいながら、いるのか?
と声をかける。

彼女達は…いた。

真っ暗なリビングに、今朝と同じ姿のまま。
里沙の唇には変わらぬ笑み。
その横にいる真奈の瞳は何も映さないテレビをみている。

私はホッとため息をついた。
私の、二度と失うことの出来ない家族は、ちゃんといてくれた。

私は温もりのない真奈を抱き、ボタンを押す。

おかえり パパ

私は幸せだ。
彼女達は決してまた、見知らぬ人に切り刻まれる事はない。





愛しい私の…家族。






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