想像の看守 ?―?
裕一はやがて、半開きのまま停止した自動ドアの前に立った。
するりと体を滑り込ませると、薄暗い廊下を足早に進む。
すぐにホールに出て、素早く辺りを見回す。そしてそこには――誰もいなかった。
「…………」
あっ、と口を開けて、裕一は固まった。沈黙が冷ややかにホールを包む。誰もいない。誰も……。不意に虚しさに襲われた。まるで、約束を裏切られたかのような……。
(……何でこんなにがっかりしてんだよ、俺……)
ふらふらと石膏でできた大木に近づくと、どさりと腰を下ろす。見上げると、昨夜裕一が折った枝の部分が、ぽっかりと空虚な穴を開けていた。折れた切断面が痛々しい。ルリのために無我夢中で木に登り、力任せに折り取ったのだ。
「……ルリ」
押し殺した声で呟くと、すぐ後ろで声がした。
「あっれー?今、『ルリ』って言わなかったー?」
聞き覚えのある、軽い調子の声。裕一はハッとして振り返った。
「キン……!!」
「どしたのユーイチ?らしくないなぁ、そんな顔して。ボク達が幻みたいに消えちゃったとでも思ったの?」
悪戯っぽく、楽しそうに笑いながら、キンがいつもの格好で現れた。降ってわいたような出現の仕方に、裕一はちょっと唖然として言葉を失う。
「お前、どこから……?」
「どこって、ここ?」
「ここって……」
「ここは、ここだよ〜。ボク達はどこからでもこっちの世界に来れるんだ」
裕一のすぐ目の前で立ち止まると、キンは目線を合わせるためにしゃがみこんだ。予想外の顔の近さに、思わず裕一が身を引くと、キンはにやにや笑いながら目を細めた。
「そんでそんで?さっき『ルリ』とか呟いてなかったかなぁ?」
からかうようなキンの口調に、裕一は顔が赤くなるのがわかった。しまった……と思ったが、もう遅い。キンは黙ってしまった裕一に、さらに追い討ちをかける。
「ユーイチはルリの事、気に入ったの?」
「そ、そういうわけじゃない!」
「じゃあ何で噛むの。こういう時はわかりやすいなぁ」
キンは今度は苦笑して言う。裕一はぷいと顔を背けた。
しばらく二人は黙り込んだ。キンはやれやれというように立ち上がり、裕一を見下ろす。裕一はむっつりと黙り込んで考えていた。この気持ちをどうキンに説明すればいいだろう……。ただ、勘違いされるのだけは嫌だった。
するりと体を滑り込ませると、薄暗い廊下を足早に進む。
すぐにホールに出て、素早く辺りを見回す。そしてそこには――誰もいなかった。
「…………」
あっ、と口を開けて、裕一は固まった。沈黙が冷ややかにホールを包む。誰もいない。誰も……。不意に虚しさに襲われた。まるで、約束を裏切られたかのような……。
(……何でこんなにがっかりしてんだよ、俺……)
ふらふらと石膏でできた大木に近づくと、どさりと腰を下ろす。見上げると、昨夜裕一が折った枝の部分が、ぽっかりと空虚な穴を開けていた。折れた切断面が痛々しい。ルリのために無我夢中で木に登り、力任せに折り取ったのだ。
「……ルリ」
押し殺した声で呟くと、すぐ後ろで声がした。
「あっれー?今、『ルリ』って言わなかったー?」
聞き覚えのある、軽い調子の声。裕一はハッとして振り返った。
「キン……!!」
「どしたのユーイチ?らしくないなぁ、そんな顔して。ボク達が幻みたいに消えちゃったとでも思ったの?」
悪戯っぽく、楽しそうに笑いながら、キンがいつもの格好で現れた。降ってわいたような出現の仕方に、裕一はちょっと唖然として言葉を失う。
「お前、どこから……?」
「どこって、ここ?」
「ここって……」
「ここは、ここだよ〜。ボク達はどこからでもこっちの世界に来れるんだ」
裕一のすぐ目の前で立ち止まると、キンは目線を合わせるためにしゃがみこんだ。予想外の顔の近さに、思わず裕一が身を引くと、キンはにやにや笑いながら目を細めた。
「そんでそんで?さっき『ルリ』とか呟いてなかったかなぁ?」
からかうようなキンの口調に、裕一は顔が赤くなるのがわかった。しまった……と思ったが、もう遅い。キンは黙ってしまった裕一に、さらに追い討ちをかける。
「ユーイチはルリの事、気に入ったの?」
「そ、そういうわけじゃない!」
「じゃあ何で噛むの。こういう時はわかりやすいなぁ」
キンは今度は苦笑して言う。裕一はぷいと顔を背けた。
しばらく二人は黙り込んだ。キンはやれやれというように立ち上がり、裕一を見下ろす。裕一はむっつりと黙り込んで考えていた。この気持ちをどうキンに説明すればいいだろう……。ただ、勘違いされるのだけは嫌だった。
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